テレビ向けアプリ開発の基本知識と手順とは? 〜動画配信(VOD)をテレビで実現する手順と費用〜
VODをはじめとする様々な動画配信サービスが台頭し、これまでの地上波・衛星放送を視聴する以外にも「テレビを観る」習慣が定着しつつあることから、テレビ向けのアプリ開発についても改めて注目を集めています。
本記事では、テレビ向けVODアプリの開発にあたって押さえるべき基本知識や手順、気になる費用目安までをわかりやすく解説します。
はじめに:テレビ非対応が機会損失になっていませんか?
スマートフォンやPCでの動画配信サービスの視聴が定着した昨今ですが、大画面テレビで楽しみたいというニーズも強いことから、テレビ向けアプリにも関心が高まりつつあります。
動画のストリーミング配信を中心としたVOD市場は、今後もしばらく拡大が続くと見込まれており、2025年には世界規模で1,000億ドルを超えると予測されています。一方で、スマートフォンやWebには対応しているものの、テレビ向けアプリにはまだ踏み出せていないという企業も少なくありません。
「テレビ対応は気になっているが、まだ本格的に検討できていない」── そのような状況のままでは、見えない機会損失が生じている可能性があります。近年の視聴動向を見ても、テレビという『第3の画面』は、単なるチャネル追加にとどまらず、視聴時間や売上に直結するフロンティアになりつつあります。
- TVerではテレビアプリでの視聴が増加傾向で38%を占める(2025年1〜3月)
- テレビアプリ経由の視聴は「長時間・高LTV」傾向
- ファミリー層やシニア層など、Webではリーチしにくい層にも届きやすい
つまり、テレビ向けアプリに対応していないということは、本来リーチできたはずのユーザー層を取りこぼしているかもしれないということです。コンテンツのポテンシャルを最大限に活かすには、今こそテレビ対応を検討するタイミングといえるでしょう。
テレビ向けアプリ開発で押さえるべき基本知識 〜スマホアプリと同じ感覚では作れない〜
「動画配信ならすでに提供しているし、テレビ対応もそれほど難しくないのでは?」
そう考える企業様も少なくありません。しかし実際には、テレビ向けアプリはスマートフォンやWebアプリとは設計思想も技術要件も大きく異なるため、同じ感覚で開発を進めると、ユーザーの期待に応えきれないリスクがあります。
スマホとテレビでは「使われ方」がまったく違う
テレビ視聴では、ユーザーはリモコンを使ってソファーに座ったまま操作します。タップやスワイプを前提とするスマホとは異なり、「十字キーと決定ボタン」による操作を念頭に、UI(ユーザーインターフェイス)を設計する必要があります。
UIやUX(ユーザー体験)の最適化に失敗すると、視聴者の離脱やネガティブなレビューにつながりやすく、使いにくい=視聴されないという結果を招くこともあります。
テレビ向けOSの特性と開発制約
多くのスマートテレビは、Android TVやFire TVなどのプラットフォーム上で動作しますが、各OSには特有の要件や制限、審査フローがあります。
たとえばAndroid TVでは、通常のAndroidアプリとは異なるTV向けライブラリやインテントの扱い、Google Play Consoleでの設定項目などを理解し、適切に対応する必要があります。
また、テレビ端末はスペックやネットワーク環境にもばらつきが大きいため、一部の機種でパフォーマンスが著しく落ちる・再生が途切れる、といった問題が発生しがちです。これらを事前にテストし、チューニングしておくことが品質確保の面で必要です。
DRM対応や動画再生環境の確認も必須
多くのVODサービスでは、著作権保護の観点からDRM(Digital Rights Management)を活用しています。テレビ向けアプリでは、既存のDRM(WidevineやPlayReadyなど)が正しく動作するか、また既存の配信基盤と統合可能かを、早期に確認することが不可欠です。
「動画が再生できるだけ」では、ユーザー体験として不十分です。ストレスなく再生できるか・使いやすいか・離脱を防げるかといったテレビ特有の観点から、開発要件を再定義する必要があります。
テレビ向けVODアプリ開発の主な流れ 〜5つのステップ〜
テレビ向けアプリを開発するには、スマートフォンアプリやWebサービスとは異なる設計・実装フローが必要です。特に、すでに自社で配信基盤を保有している企業であれば、ゼロからの構築ではなく、既存資産を活かしながら効率的に対応していくことがポイントとなります。
ここでは、Android TVやFire TVなどのスマートテレビ向けにVODアプリを開発する際の、代表的な5つのステップをご紹介します。
ステップ1:要件整理と既存サービスの棚卸し
まずおこなうべきは、どのテレビプラットフォーム(例:Android TV、Fire TV、Apple TV)に対応するのかを明確にすることです。
併せて、現在の配信インフラ(動画配信基盤、DRM、認証方式など)との連携可否も確認します。
チェックポイント例:
- 既存の動画プレイヤーや配信APIはテレビ対応に流用可能か
- DRM(Widevine、PlayReadyなど)はテレビOS側で対応可能か
- ユーザー認証やログイン連携方式はそのまま使えるか
ステップ2:テレビ向けUI/UXの設計
テレビ向けアプリのUI/UXは、前述しましたように、リモコン操作が基本である点を前提に設計する必要があります。
スマートフォンで直感的におこなっていた操作が、十字キーと決定ボタンのみでおこなわれるため、操作階層を浅くし、視認性を高めたシンプルなUIが求められます。
具体的な工夫例:
- フォーカス(選択中)の見せ方を明確に
- ホーム画面で主要コンテンツをすぐに表示
- 長時間利用でも目が疲れにくい配色とフォント設計
ステップ3:テレビ向けアプリの開発・実装
Android TVアプリは、ベースとしてはAndroidアプリと共通の言語(Java/Kotlin)で構築できますが、テレビ向けのAPIやレイアウト構造、制約への対応も加えて必要です。
Android TVやFire TVなどの主要プラットフォームでは、それぞれ独自の開発ガイドラインが存在するため、各OSへの対応を事前に把握しておくことが重要です。
ここでのポイント:
- Android TV用のLeanbackライブラリなどの活用
- 各OSの審査基準・アプリサイズ制限への対応
- パフォーマンス最適化(低スペック端末でもストレスなく動作)
ステップ4:再生プレイヤー・DRMの実装と統合
テレビ向けアプリでも高画質な動画を安定して提供するためには、再生プレイヤーの最適化とDRMの統合が欠かせません。WidevineやPlayReadyなどの主要DRMに対応した再生環境を構築し、既存の配信システムとの統合をおこないます。
主な注意点:
- プレイヤー選定(ExoPlayerなど)とテレビ環境での動作検証
- コンテンツによって必要なDRMライセンスの取得
- ABR(可変ビットレート)対応とネットワーク状況への最適化
ステップ5:テスト・申請・公開
開発が完了したら、多様なテレビ端末での動作確認をおこない、各ストアでの申請〜公開を進めます。Android TVではGoogle Play Consoleでの申請、Fire TVではAmazon Developer Consoleでの申請が必要です。
主な確認項目:
- OS・端末ごとの画面表示やフォーカス挙動
- ネットワーク帯域の変化による再生挙動
- 各国言語環境・地域設定でのUI崩れ
ここまでご紹介しましたように、テレビ向けアプリの開発は、ただ単純に既存のスマホアプリを流用するだけでは不十分です。テレビならではの操作性・性能・ユーザー体験を考慮した設計と実装が、離脱率の低減やLTV向上に直結するので、まさにアプリ開発・リリースの成功を左右します。
テレビ向けVODアプリ開発の費用相場と契約形態ごとの違い
テレビ向けVODアプリの開発にかかる費用は、アプリの規模や機能だけでなく、契約形態(請負、準委任)やその後の運用・保守内容によっても大きく変動します。
請負契約の場合:納品までをパッケージで依頼
要件が明確な場合に向いている契約形態です。開発側がスコープを定め、納期・成果物を保証する形で進行します。機能が複雑になるほど、費用も上がります。
規模 | 費用目安 | 内容例 |
---|---|---|
小規模 | 50万円〜200万円 | 試作品、シンプルな動画再生、ログイン機能など |
中規模 | 300万円〜700万円 | 課金・ユーザー管理・多言語対応など |
大規模 | 800万円〜 | 大手VODサービスレベル、大規模連携、配信管理等 |
注意点としては、機能追加や仕様変更が生じる際に、再見積もりや納期見直しが発生しやすくなります。
準委任契約の場合:柔軟な開発と改善対応
要件が流動的な場合や、既存アプリの改善・追加開発を依頼したい場合は、準委任契約(いわゆるラボ型開発)が向いています。こちらは、開発工数に応じて費用が発生します。
規模 | 費用目安 | 内容例 |
---|---|---|
小規模〜中規模 | 60万円〜150万円 | 技術サポート/機能追加・改善 |
大規模 | 100万円〜(要件依存) | 開発体制強化・長期対応 |
請負契約と比べて、仕様変更へも柔軟に対応でき、自社内の開発チームと並走する形で進行できます。
保守・運用にかかる追加費用
開発が完了しても、アプリは「リリースして終わり」ではありません。継続的な運用・改善が求められるため、保守コストについても別途考慮する必要があります。
- サーバー/CDN運用費: 月額数万円〜(規模依存)
- ドメインや証明書の維持費: 年間5万〜5万円程度
- OSアップデート対応: 一機能あたり10万〜50万円
特にテレビOSはアップデートの影響範囲が広く、特定機種のみ再生できない・UI崩れが出るといった問題に対応するための、技術体制も必要になります。
ここまでご紹介したそれぞれの費用は、あくまでも目安となりますが、一つの参考情報としていただければ幸いです。
なお、弊社にてアプリ開発をご支援する場合には、お客様のご要望・要件を細かくヒアリングしながら、ご予算に応じて柔軟にご対応しています。
さいごに
VODアプリ開発は、企画・設計からデザイン、実装、テスト、リリース、運用まで多岐にわたる工程を経て実現します。
技術進化とユーザー体験の高度化、そして多様なビジネスモデルの融合によって、今後も成長が期待される分野ですが、テレビの大画面で高品質な動画体験を提供するには、専門的な技術力と豊富なノウハウが不可欠です。
弊社では、テレビ向けのアプリ開発や運用の実績を多数有しており、様々な経験で培ったノウハウを活かし、多くのお客様に最適なソリューションを提供しています。
「テレビでVODサービスを展開したい」「大画面の強みを最大限に活かしたい」といったご要望があれば、ぜひお気軽にご相談ください。お困りの際はぜひご相談ください。豊富な経験と実績のある開発スタッフが対応いたします。
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