普及が待たれるローカル5G 〜Wi-Fi 7との違いとともに解説〜
携帯電話キャリアの5Gネットワークが登場したことに伴って、普及が進むとみられていた「ローカル5G」ですが、まだまだ普及には程遠いというのが現実です。
この記事では、ローカル5Gの概要や普及状況、一方で、通信の超高速が期待されるWi-Fi 7との違いなどについてご説明していきます。
ローカル5Gとは
ローカル5Gとは、企業や団体などが独自に運用できる5Gネットワークの一種です。
携帯電話キャリアによって提供される5Gサービスと異なり、限定されたエリア内でのみ利用されることが前提となります。例えば、スマートファクトリーやスマートシティーなどのような特定の用途・環境に、最適化された通信を提供できる技術として期待されています。
なお、携帯電話キャリアによって提供される5Gサービスは、ローカル5Gと区別するため「商用5G」「パブリック5G」などと呼ばれます。
ローカル5Gのメリット
ローカル5Gの主なメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 超高速
- 多接続
- 低遅延
携帯電話キャリアによる商用5Gと同様に、超高速かつ低遅延で、多くのデバイスから同時利用できるという特徴があります。また、独自のネットワークを構築することから、高いセキュリティーを確保できるというメリットもあります。
ローカル5Gのデメリット
多くのメリットを有する一方で、次のようなデメリットも存在します。
- 高い初期導入コスト
- 導入の事前準備や運用が複雑
ローカル5Gを採用するためには、必要なインフラをすべて自前で構築する必要があり、初期投資はもちろんのこと、運用にあたっても多額のコストを要します。
それだけでなく、構築にあたっては免許を取得する必要があり、そのためには総合通信局(総務省)や他事業者との調整も欠かせないなど、費用面以外にも様々なハードルが存在します。
ローカル5Gの普及に関する実情
ローカル5Gはまだ普及しているとは言えず、PoC(Proof of Concept、概念実証)の域を脱していないのが実情です。先述のようにデメリットがいくつもあり、これらが普及を阻害する要因となっています。
- コストの問題
- 規制と許認可
- 技術的な課題
まず、高いコストは中小企業にとっては負担が大きく、体力のある大企業や団体でないと、ローカル5Gはそもそも検討の対象となりません。
そして先にも触れたように、導入や運用にあたっては免許の取得を要します。日本国内では、管轄する総合通信局との調整も必要であり、準備段階だけで数ヶ月以上の年月を要します。それに加えて日本国外へも展開するグローバル企業にとっては、導入する地域ごとに、当局の規制やルールにそれぞれ従う必要があります。
それだけでなく、導入や運用には高度な技術やノウハウが欠かせないですが、それをサポートするための人材やリソースも不足しています。
そもそも、ローカル5Gのメリットや活用事例がまだ十分に認知されていなかったり、需要度合いが不明確だったりすることも、この状況を好転できない要因となっています。
ローカル5Gの普及に関するロードマップ
JEITA(電子情報技術産業協会)が事務局となって設立された5G-SDC(5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム)では、5Gなどの利活用を通じた産業・社会におけるDX推進のための事業をおこなっています。
その中で、関連市場調査などを通じて「ローカル5G普及ロードマップ」が取りまとめられているので、ご紹介します。
同ロードマップの中では、ローカル5Gの本格的な普及期は2025年以降になり、その時期を迎えるためには、中小企業・小規模案件へ適用できることが重要とされています。
実証実験などはすでに各地で進められており、ここから得られる知見などが、導入手順や機器などの改善に役立てられていくものと期待されています。
ローカル5Gの導入事例
ローカル5Gはまだ一般的には普及していないことから、導入事例も限られています。現時点では主に、大企業や特定の産業分野で、試験的に導入されている段階に留まります。
総務省にて2020年度から2022年度までおこなっていた、ローカル5Gなどを活用したソリューションを創出する「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」事業より、参考としたい事例をいくつかご紹介します。
【屋外・農業】ローカル5Gを活用した遠隔監視制御及び遠隔指導等によるゆず生産スマート化の実現
課題
中山間地域における農業では、傾斜地が多いことや、それゆえに経営面積が小さくなりがちなことから、次のような課題がありました。
- 作業安全性の確保が困難
- 営農条件が平地と比べて厳しい
実証概要と成果
中山間地域に位置するゆず農園へローカル5G環境を構築し、モバイルムーバーの自動走行・遠隔操作による農薬散布や、4K360度カメラを用いたバーチャル訪問、新規就農者へのスマートグラスを用いた遠隔指導の実証をおこないました。
その結果、次のような成果が確認されました。
- 農薬散布にかかる作業時間を82%削減し、コストも10aあたり1,550円削減
- 没入体験にあたっての工夫が必要という知見 (ゆずの樹木近くへのカメラ設置が必要)
- 遠隔指導にかかる時間を57%削減 (指導対象3名の場合)
【屋内・工場等】データセンターにおけるローカル5Gを活用した運用省人化及び安定運営の実現
課題
社会のデジタル化が進展するにつれてデータセンターの安定稼働がますます求められる一方で、少子高齢化などを背景として、次のような課題に直面しています。
- オペレーター人材の確保が困難 (特に地方において)
実証概要と成果
データセンター内にローカル5G環境を構築し、ロボットを活用してLED・アナログメーター類の自動監視や、外部電源の遮断時における緊急作業の遠隔支援に関する実証をおこないました。
その結果、次のような成果が確認されました。
- 自動監視による異常の判定精度は88〜100%
- 満充電の自動走行ロボットが、全サーバーラックを巡回できることを確認
- スマートグラスや資料共有を通じて、円滑に遠隔支援できることを確認
【屋内・医療】ローカル5Gを活用した大都市病院間の広域連携による救命救急医療の強靭化と医師の働き方改革の実現
課題
救急医療の需要が急速に増大する中、救急患者の適切な受け入れ体制強化が求められる一方で、医師の確保や待遇改善などが課題となっています。
- 医師不足
- 医師の長時間労働
実証概要と成果
病院内の緊急医療センターなどにローカル5G環境を構築し、高精細映像のリアルタイム共有による救急搬送の高度化や効率化を図り、360度カメラなどを活用した遠隔医療支援や院内患者移動に関する実証をおこないました。
その結果、次のような成果が確認されました。
- 映像共有を通じて、病院選定時間や医師拘束時間、患者搬送時間を削減
- フレームレート27fps以上、伝送遅延1,000ms未満を、平均値で達成
- 医療における高度化と効率化の同時達成を確認
現実的な選択肢としてのWi-Fi 7
Wi-Fi(ワイファイ、無線LAN)は、企業のみならず個人へも広く普及しています。
現時点では、コスト面でこなれてきたWi-Fi 6(IEEE802.11ax)が広く普及している段階で、最新規格であるWi-Fi 7(IEEE802.11be)については2025年〜2026年頃に主流となることが見込まれています。
Wi-Fi 7には、次のような特徴があります。
- 最大46Gbpsの通信速度 (Wi-Fi 6と比べて約8倍)
- 低遅延 (特に通信が不安定なとき)
- より多くのデバイスが同時に接続可能
Wi-Fi 7の詳細は別記事にまとめていますので、ぜひ併せてご覧ください。
黎明期のWi-Fiは、低速・不安定であったり、多くのデバイスから同時接続できなかったりなど、技術的に多くの課題を抱えていました。しかし近年では、Wi-Fi関連規格におけるバージョンアップが繰り返されるにつれて、多くの課題がクリアとなりつつあります。
Wi-Fiは業務向けの対応機器も多く販売されていることから、機器を安定的かつ安価に調達可能となっており、導入時のベストプラクティスについても確立されていると言える状況です。そのためローカル5Gよりも導入しやすく、「超高速」を求めるユーザーにとっては、現時点での現実的な選択肢といえます。
ローカル5GとWi-Fi7の比較
では、ローカル5GとWi-Fi 7とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
主要な項目について、次のように表としてまとめました。
ローカル5G | Wi-Fi 7 | |
---|---|---|
免許 | 必要 | 不要 |
運用ハードル | 高い | 低い |
運用コスト | 高い | 中程度 |
最大速度 | 10Gbps (実効〜1Gbps) |
46Gbps (実効1〜8Gbps) |
遅延 | 〜1ms | 5〜10ms |
周波数帯 | 4.7GHz(Sub6)/28GHz(ミリ波) | 2.4GHz/5GHz/6GHz |
同時接続デバイス数 | 数千 | 100〜500 |
認証方法 | SIM | SSID+パスワード |
カバーできる環境 | 屋内+屋外 | 屋内のみ (屋外は制約付きで可) |
カバーできる範囲 | 〜数km | 数十〜数百m |
さいごに
ローカル5Gが注目されるようになってから数年が経ちますが、高いハードルが普及を阻害しているのが現状です。利用ケースによっては、Wi-Fiでもニーズを十分に満たせることも珍しくなく、コストパフォーマンスの面ではWi-Fiが圧倒的優位ですらあります。
当社では、様々な施設においてWi-Fi環境の導入や改善についてサポートしており、「Wi-Fi 7」を含む最新技術についても機器検証や情報収集を日々おこなっています。
ご不明点や気になる点、機器検証のご要望などありましたら、どのような内容・些細なことでも問題ありませんので、お問合せフォームよりご相談いただけましたら幸いです。
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