ECにおけるパーソナライゼーションとは 〜よくある誤解&導入時に把握しておきたいこと〜

多くのECサイトにとって「パーソナライゼーション」は、優れた顧客体験を実現し、売上や顧客満足の最大化に貢献します。

Amazonや楽天などのような一部企業がこれを積極的に取り入れている一方で、多くのECサイトでは、適応が遅かったり、メリットを活かせていなかったりします。

この記事では、パーソナライゼーションについての概要とともに、導入を成功させるために把握しておきたい注意事項などについてもご説明します。

ECにおけるパーソナライゼーションとは

まず、ECにおけるパーソナライゼーションが必要となる背景について、Amazon.com共同創設者として知られるジェフ・ベゾス氏の言葉によって、端的かつ見事に説明されています。

「2000万人の顧客を獲得したいのなら、2000万の『店舗』が必要だ。」
PC World『Bezos: Net personalization is key』 (2000年6月28日)

これを実現するための手段として、パーソナライゼーションが用いられます。

パーソナライゼーションの概要

ECにおけるパーソナライゼーションとは、顧客一人ひとりの嗜好や行動に基づいて、個別に最適化された(=パーソナライズされた)顧客体験を提供することです。

わかりやすい具体例として、過去の購入履歴や閲覧履歴などの行動データを顧客ごとに分析し、その結果を踏まえて、興味を持ちそうな商品やサービスを提案することなどが挙げられます。

ECにパーソナライゼーションを取り入れることは、顧客との関係を深めて満足度を高めるため、そして売上を最大化するための、重要な戦略となっています。

パーソナライゼーションの重要性

EC市場の成熟に伴って、昨今のECには膨大な商品や情報が溢れています。これは顧客にとって、「何でも揃っている」というメリットをもたらす一方で、「欲しい商品を見つけるのが容易でない」というデメリットをもたらしています。

そこでパーソナライゼーションを導入することによって、顧客は欲しい商品を素早く見つけ出せるようになり、顧客体験が向上します。そしてその結果として、コンバージョン率が向上し、顧客ロイヤルティの強化、リピート率の向上にも繋がるのです。

パーソナライゼーションと呼べないものは 〜よくある誤解〜

パーソナライゼーションでは前述のように、顧客一人ひとりに最適化された顧客体験を提供することを目的としています。しかし、個別対応や個別カスタマイズであればパーソナライゼーションと呼べるわけでもありません。

よくある誤解として、代表的なものについてご説明します。

単純なセグメンテーション

顧客を大まかなカテゴリーに分ける「セグメンテーション」は、パーソナライゼーションと混同されやすい代表格です。

セグメンテーションでは、年齢や性別、地域などの基準で顧客をグループ分けする手法であり、そのセグメント全体に同じアプローチをおこなうのが一般的です。例えば、「20代女性向けの夏の新作を紹介するメール」は、セグメンテーションを活用する手法です。

一方のパーソナライゼーションでは、顧客ごとの行動データや嗜好データなどに基づいて、完全にカスタマイズされた顧客体験を提供します。例えば、「過去の購入履歴・閲覧履歴に基づき関連性の高い商品を紹介する」などが該当します。

静的なカスタマイズ

静的なカスタマイズとは、顧客自身が設定変更してカスタマイズすることを指します。例えば、アカウント設定からメルマガの配信頻度・内容を調整したり、好みのカテゴリーを選択したりすることです。

パーソナライゼーションでは、顧客の行動データをリアルタイムに分析し、システム側からアプローチや調整を動的におこないます。例えば、閲覧した商品に関連するプロモーションや新着情報を自動で提供することなどが該当します。

ルールベースのアプローチ

ECサイトやサービスの中には、あらかじめ決められたルールに基づいて対応をおこなうケースがあります。例えば、「特定の商品を3回以上閲覧した顧客に、メールを送信する」のような固定ルールです。

パーソナライゼーションでは、多様な行動データを顧客ごとに分析し、最適な対応を動的におこなうことが求められます。例えば、行動パターンなどから嗜好を推測し、最適なタイミングで最適なコンテンツやオファーなどを提供することなどが挙げられます。

1対1のパーソナライゼーションとは

すべてのECサイトには、以下3つの要素があります。

  • 顧客
  • 商品
  • 顧客による行動(アクション)

このことを踏まえて、「30種類」のドレスを販売するECサイトで「10人」の顧客が買い物する、というケースを考えてみましょう。

各商品に対して顧客がおこなえるアクションとして、以下の10個が挙げられます。

  • 商品ページを表示
  • 今すぐ購入
  • カートに追加
  • 欲しいものリストに追加
  • サイズを変更
  • 色を変更
  • 類似商品をクリック
  • 一緒に購入される商品をクリック
  • ブラウザーの戻る
  • ブラウザーを閉じる

10人の顧客はそれぞれ、30種類の商品それぞれに対して10種類のアクションを実行できます。これはつまり、3,000通りの組み合わせが存在することを意味します。

ECサイトでは通常、同様のアクションを実行する顧客を1つのセグメントにまとめようとします。例えば、10人のうち3人がドレスAをカートに入れた場合、これらの顧客は1つのセグメントに入れられます。そしてEC事業者は、ドレスAおよびそれと似た外観のドレスの写真を使って、そのセグメントへリターゲティング広告を打ちます。一見、論理的に感じますよね?

そこで、ドレスAがどのような商品で、このドレスをカートに入れた3人の顧客がそれぞれどのようなアクションを起こしていたのか、見ていきましょう。

  • ドレスA: 商品の属性が「膝丈」「ターコイズブルー」「スクープネック」
  • 顧客a: サイト上のすべての「膝丈」ドレスの商品ページを表示
  • 顧客b: サイト上のすべての「ブルー系」ドレスの商品ページを表示
  • 顧客c: サイト上のすべての「スクープネック」ドレスの商品ページを表示

これはつまり、3人の顧客はそれぞれ異なる経緯で、たまたま同一商品を気に入ったことを意味します。

EC事業者が各顧客の行動パターンをそれぞれ個別に追跡・把握できていれば、次のようなパターンで、より有効な広告を打てたでしょう。

  • 顧客a: 「膝丈」のドレス写真
  • 顧客b: 「ブルー系」のドレス写真
  • 顧客c: 「スクープネック」のドレス写真

顧客は、それぞれがユニークな個人であり、それぞれがセグメントです。顧客、商品、商品属性、アクションなどは、顧客ごとにユニークなプロファイルとしてマッピングする必要があるのです。

これが、「 1対1のパーソナライゼーション」のベースとなるのです。

しかし、このようなパーソナライゼーションの実現には、どのようにすれば良いのでしょうか。上述のような限定的な例でさえ、3,000通りの組み合わせがあります。多様の属性を持つ数千・数万もの商品・顧客を抱えるECサイトでは、組み合わせは数百万以上にも膨れ上がります。もはや多くの事業者にとって、不可能な作業のように思えますよね。

そこで、AIの出番です。

ECにおけるAIベースのパーソナライゼーション

AIベースのパーソナライゼーションは、すべての顧客に対して、最適化されたユニークな体験を提供します。しかし、この体験はどのように構築されるのでしょうか?

正確なデータが前提条件

第一に、正確なデータの作成・管理が欠かせません。しかし、手動でデータを作成・管理しようとすると、情報の解像度が低くなったり、人為的なエラーや不一致が発生しやすくなったりします。

そこでAIを活用することによって、膨大なデータが自動タグ付けの形でリアルタイムに作成され、それぞれの顧客の嗜好と照合されます。そして、正確なデータベースとして管理されます。

顧客のプロファイリング

先述のデータベースは、パーソナライゼーションを実現するためのベースともなる、顧客ごとのプロファイルを作成するにあたって活用されます。

プロファイルは、視覚的な特徴(例:色、パターン、形状)と被視覚的な特徴(例:ブランド名、カテゴリー、価格)を自動的に認識して、すべての顧客を包括的に理解します。以下のようなデータも、各買い物客の買い物客プロファイルに組み込まれます。

  • 行動の手がかり: 顧客が開いた商品、カートに追加した商品、カート追加せずに去った商品
  • 取引データ: 顧客の購入履歴、返品履歴

ここで作成するプロファイルは、ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)の手がかりとしても役立ち、バイヤーの決定へも影響を与え得るのです。

プロファイリングも万能ではない

しかし、顧客のプロファイルだけで十分なのでしょうか?ここで、新米の母親・エミリーのケースを例に見てみましょう。

妊婦となる前の彼女にとって、季節に関係なく、短い膝丈のドレスがお気に入りでした。そして母親となり、非マタニティーの膝丈ドレスを探そうとワクワクしていました。

しかし、彼女を待ち受けていたのは、期待を裏切る結果でした。頻繁に利用するECサイトを訪れても、欲しい膝丈ドレスが1着も見つからなかっただけでなく、マタニティードレスばかりが推奨されました。仕方なく彼女は、他のサイト・場所を探すこととしました。

なぜ、このようなことが起こったのでしょうか。

アルゴリズムに不具合が生じていたわけではなく、パーソナライゼーションエンジンは完璧に機能していました。エミリーには、過去9ヶ月間に閲覧・購入した履歴に基づいて、「マタニティードレス」が推奨されました。しかし、アルゴリズムが拾い上げるのに十分なデータが揃っていなかったので、最近になって探し始めていた「膝丈ドレス」は重要視されなかったのです。

実はこのケースでは、多くのECサイト利用客が抱える不満をあらわしています。顧客は「自分のニーズに合わせて、具体的かつ的確な提案をしてくれる」ことへ期待していますが、AIベースのパーソナライズエンジンが直面する難問を象徴していると言えます。それは、エミリーにおける「妊娠」のような直近のコンテキストイベントと、短期的には把握できない長期的な履歴とのバランスを見つけることです。

レコメンデーションとは

ECサイトでは膨大な商品数を扱っていることも珍しくなく、顧客の欲しい商品をスムーズに見つけることは決して容易ではありません。レコメンデーションとは、顧客を適切な商品へ導くための推奨機能を指し、欲しい商品をより簡単に見つけられるようにします。

現在では多くのECサイトで導入されているレコメンデーションですが、Amazon.comでは黎明期のオンライン書店時代から導入されており、次に読むべき本を探すために役立てられていました。

レコメンデーションは、大きく3つのタイプに分類されます。

1. グローバルなレコメンデーション

市場全体的なトレンドやインサイトに基づく、最も汎用的なレコメンデーションです。

特に、初めてECサイトにアクセスする新規ユーザーにとって有益で、まったく新しい商品やカテゴリーを見つけるのにも役立ちます。

主にレコメンドされる商品として、以下のようなものが挙げられます。

  • 最も人気のある商品
  • 話題の商品
  • 新商品

2. コンテキストに基づくレコメンデーション

商品の特徴などに基づくレコメンデーションです。

視覚的な属性をもとにしており、次のような商品がレコメンドされます。

  • 視覚的に似ている商品
  • 組み合わせる商品 (スタイリングを完成させる)
  • 一緒に見られている商品

3. パーソナライズされたレコメンデーション

顧客ごとにパーソナライズされたレコメンデーションです。

顧客の行動パターンなどに基づいており、コンテキスト情報を組み合わせながら、顧客ごとにカスタマイズされた商品がレコメンドされます。

  • 閲覧履歴に基づく商品
  • あなたにおすすめの商品 (顧客プロファイルに基づく)

ECにおける顧客行動の全体にわたるパーソナライゼーション

一見すると、パーソナライズされたレコメンデーションが最適だと感じるかもしれませんが、全ページで機能するわけではない点に注意が必要です。

顧客体験の向上を図りコンバージョンを最大化するためには、適切なページで適切なレコメンデーションを用いる必要があります。

1. トップページのパーソナライズ

多くの顧客は、トップページからECサイトへ入ります。

グローバルなレコメンデーションをベースとするのが一般的ですが、リピーターに対してはパーソナライズされたレコメンデーションを表示するのが良いでしょう。

  • 最も人気のある商品 (新規向け)
  • 話題の商品 (新規向け)
  • 閲覧履歴に基づく商品 (リピーター向け)

2. カテゴリーページのパーソナライズ

カテゴリーページは、特定ジャンルの商品を探しているものの、どの商品かを決めていないという顧客向けです。

こちらも、グローバルなレコメンデーションをベースとするのが一般的です。リピーターに対しては、パーソナライズされたレコメンデーションを表示したり、おすすめ順での並べ替えを提供したりするのが良いでしょう。

  • カテゴリーで人気のある商品
  • カテゴリーで話題の商品
  • 商品一覧のパーソナライズされた並べ替え (リピーター向け)

3. 商品ページのパーソナライズ

商品ページは、特定の商品を探しているか、その属性の商品が気に入っているという顧客向けです。

ここではグローバルなレコメンデーションは適切でなく、コンテキストに基づくレコメンデーションをベースに、リピーターにはパーソナライズされたレコメンデーションも表示すると良いでしょう。

  • 視覚的に似ている商品
  • 一緒に見られている、一緒に購入されている商品
  • パーソナライズされたスタイリング例 (リピーター向け)

4. カートページのパーソナライズ

カートページは、顧客が「その商品を購入したい」という強い意思が示されるページです。

ここでもグローバルなレコメンデーションは適切でなく、コンテキストに基づくレコメンデーションをベースに、リピーターにはパーソナライズされたレコメンデーションも表示するべきでしょう。

  • 視覚的に似ている商品
  • 一緒に見られている、一緒に購入されている商品
  • パーソナライズされたスタイリング例 (リピーター向け)

5. 注文後ページのパーソナライズ

注文後ページでは、さらなる購入を促すために、他の商品を表示できます。

これまでのページとは異なり、3種類すべてのタイプのレコメンデーションが有効と言えるでしょう。

  • 一緒に見られている、一緒に購入されている商品
  • 最も人気のある商品
  • 話題の商品
  • パーソナライズされたスタイリング例 (リピーター向け)

まとめ

ECにおけるパーソナライゼーションは、多くのECサイトへ広がりを見せつつある一方で、ベストな形での導入は容易ではありません。正しい知識を持って適切なレコメンデーションエンジンを選定することが、顧客体験の向上への近道です。

当社においても、AIによるパーソナライズやタグ付けの自動生成サービスを取り扱っており、アパレル企業を中心に多くの導入実績があります。サービスのご紹介や無料デモも承りますので、ご興味のある方は、ご遠慮なくご相談いただけますと幸いです。

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