映画業界のデジタル化とVPFの終わり

ハリウッドで上映素材のDCP化が始まるのと同時に、急激なスピードで進んだ映画業界のデジタル化。

2010年ごろあらゆる既存媒体の中で、映画は、デジタル化で残された最後の媒体でした。

レコードがなくなり、VHSが光学ディスクに代わっても、映画館は、VFXなど複雑なデジタル効果を経て作られる最新のハリウッド大作を、100年前から変わらない35mmフィルムで上映し続けていました。

しかし、その遅いともとれるデジタル化の移行には大きな理由があったのです。

VPFが終わりを迎える10年を経て、改めて映画業界のデジタル化を振り返ってみます。

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コンテンツを襲う脅威

ハリウッドは当然のことながら、コンテンツの管理に対する潜在的な脅威について懸念していました。

実際に音楽部門を持つ企業は、インターネットの社会的到達範囲の広さと、簡単に複製可能なデジタルファイルで何が起こり得るかを目の当たりにしていたからです。

コンテンツを守るためには、高いセキュリティを有した安全な著作権侵害対策メカニズムを開発する必要がありました。

フィルムレベルの品質問題

また、もうひとつが品質の問題です。

35mmフィルムは、上映するたびにフィルムに傷が入ったり、音響にも問題が起こり得る素材でした。これがデジタル上映素材に置き換わると、何度上映を繰り返しても素材が劣化することなく、お客様がいつ映画館に観に来られても、いつも同じ映像クオリティでの上映が可能となります。

しかし、既に存在していたデジタルテレビの基準のどれもが映画館での上映に耐えうる品質ではありませんでした。これを実現するためには、デジタル上映素材の基準を作ることが必須であり、フィルムと同等以上の高品質な素材にする必要があったのです。

また、35mmフィルムの複製と映画館への輸送にかかる全コストを考えれば、フィルムのデジタル化は大きなコスト削減に繋がるチャンスとなります。

デジタルへの移行に必要な多額のコスト

これらを実現するためには、多額の資金が必要です。そして同時に、世界中の劇場が既存の映写機をデジタルシネマシステムに交換する必要がありました。

しかし、映写機に比べてデジタルシネマシステムは、メンテナンス費用や耐用年数を考えると割高になる可能性も高く、映画を見に来るお客さまからも「デジタルで観たい!」といった要望が上がることもない中で、自分たちが関与しない流通コストを削減するために興行側が膨大な設備投資をするというビジネスケースには難航の兆しがありました。

そこで考案されたのが、VPF(バーチャル プリント フィー)というモデルです。

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VPFの登場

上映素材については、デジタルシネマコンテンツの互換性を確保するためのDCI仕様(DCI基準:Digital Cinema Initiatives, LLC/世界的な流通素材、デジタルシネマ機器に関する共通仕様から発行されたデジタルシネマ・システム仕様規格)として、DCP(デジタルシネマパッケージ)が開発されました。またVPFの登場により、配給および興行双方が「映画館のデジタル化」に必要な費用を負担することで、映画業界のデジタル化は急速に進みました。またこの契約により、品質とセキュリティのDCI仕様を満たす機材の普及が促進されました。

しかしその一方で、配給側が映画館に作品を配給する毎に利用料を支払うという制度の影響で、作品の上映スクリーンが限られてしまったり、上映開始日が調整されるなど、デジタル化の恩恵ともいえる柔軟で自由なスクリーン編成が叶わない現状も生まれてしまいました。

VPFの終わり

日本で本格的なデジタル化が始まってから、約10年が経過しようとしています。

VPFには10年契約の縛りがあり、映画館も徐々に期間の満了を迎えていますが、今のところ"第二のVPF"が出現することはないと考えられています。

そうなると映画館は自費でデジタル機材を維持することになりますが、同時に興行・配給双方はVPFの取り決めによって課せられる制限からも解放されることになります。

作品の自由な編成はもちろん、デジタル化によって映画館で実現できるエンターテインメントは、今後さらに増えていくはずです。

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映画業界のデジタル基盤ができ、映画を取り巻くテクノロジーは今も発展し続けています。

ただ、デジタル化で運用やコストの構造も大きく変わったとはいえ、実際には前時代的なスキームで動いている業務も多々残っており、デジタル化を生かし切れているとは言えない現状があります。

デジタルの利点である効率化。現業務を見直し、効率化を進めることで "お客さまに最高の体験を与える"ことに投資できるよう、興行も配給も次のイノベーションを見据えた準備が必要なのではないでしょうか。

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