映画館の電力コストを自動削減する仕組みとは 〜TMS連携による省エネ運用〜
映画館運営において、電力コストは見過ごせない固定費のひとつです。特に上映終了後の「無人時間帯」における機器の待機稼働は、年間を通じて大きなロスにつながります。
この記事では、映画上映管理システム(TMS)との連携で上映スケジュールに合わせた機器の自動制御を可能にする「PAA20+オートメーションアダプター」の導入事例を紹介しながら、映画館の省エネ運用の新しい可能性を探ります。
映画館運営に潜む「見えない電力ロス」とは?
上映終了後の待機電力が生む電力コスト
映画館運営において、上映が終わった後もプロジェクターやサーバー、アンプ、空調設備などが稼働し続けているケースは珍しくありません。特に最終回後の時間帯では、スタッフの作業が集中し、機器の電源オフが後回しになったり、担当者によって対応がばらついたりすることもあります。
こうした「待機状態のエネルギー消費」は、1日ではわずかに見えても、積み重なることで年間では無視できない電力ロスとなり、結果として固定費の増加につながります。
そのため、電力料金の上昇が続く昨今、こうした課題は国内外の劇場で共通認識となりつつあります。
映画館にとって電力コストは無視できない固定費
海外の調査では、映画館の年間エネルギー消費のうち約48%が空調(HVAC)によるものと報告されています。さらに、事業用電力単価は近年上昇しており、中規模館でも年間数百万円規模の電力支出が発生する状況となっています。
こうした背景の中で、照明・アンプ・空調などが「気づかないうちに稼働している」状態は、多スクリーン館ほど累積影響が大きく、運営上の課題として認識されつつあります。
そのため、まず「どこに無駄があるか」を把握し、効率的な運用につなげる取り組みが重要です。海外ではすでにこうした改善が進んでおり、国内の映画館にとっても、省エネ戦略を検討する上で参考になる点が多くあります。
海外で台頭するPAA20+オートメーションアダプターとは? 〜特徴と導入メリット〜
海外では昨今、TMSと連動して各電力を制御できる「PAA20+オートメーションアダプター」という機器の利用が広がっています。
上映スケジュールに基づいた主要機器の電源制御を実現し、無駄な稼働時間を削減することを目的としており、既存機材の置き換えを前提としない「後付け型」のアプローチで改善するという点が大きな特徴です。
特徴
上映スケジュールと連動した自動制御
アンプやスクリーンサーバー、空調(HVAC)※ といった主要機器を、上映スケジュールに合わせて自動的にON/OFFできます。(※劇場専用の空調回路が分離・制御可能な場合に対応)
これにより、スタッフによる毎回の電源操作が不要となり、消し忘れ・つけ忘れなどのヒューマンエラー防止につながります。
既存設備を活用した導入が可能
PAA20+オートメーションアダプターは19インチラックに収まる設計で、背面コネクタを用いた接続により、既存の劇場システムへ容易に組み込むことができます。
新しい機材への全面置き換えが不要なため、初期投資を抑えつつ運用効率を高めたい劇場に適しています。
設定・運用がシンプル
初期設定や管理はWebインターフェース上で行え、専門的な知識がなくても扱いやすいユーザインターフェースとなっています。
そのため、現場スタッフでも日常的な運用が可能で、本部側での状況確認や設定変更といった遠隔管理の仕組みにも拡張しやすい構造です。
段階的な導入に適する柔軟性
1スクリーン単位での試験的な導入にも対応しており、規模や予算に応じて段階的に展開できます。
まず一部スクリーンで効果を検証し、その後全館へ展開するといった、低リスクの導入モデルが実現できる点も魅力です。
導入のメリット
海外の公開事例では、PAA20+オートメーションアダプターの導入により、10スクリーンあたり年間6,500ユーロ(約100万円)の電力コスト削減が報告されています。投資回収期間(ROI)はおおよそ3年以内とされており、実運用に基づく定量的な効果が示されています。
また、同製品は欧州を中心に4,000台以上が出荷されており、電力単価の高い地域を中心に採用が拡大しています。省エネ効果に加え、上映オペレーションの標準化や作業効率の向上を目的として導入する劇場も多く、総合的な運用改善に寄与する点が評価されています。
日本の映画館における省エネ化のポイントとは
日本の映画館でも電力料金の上昇を背景に、まずは「無駄な稼働時間を減らす」ことが現実的で効果の高い改善アプローチとして注目されています。
具体的には、次のようなポイントが検討の出発点となります。
1. 設備の稼働実態を把握する
最終回の終了後〜翌営業の開始前にかけて、照明・アンプ・空調などがどれほど「無人状態で稼働」しているかを可視化することが、改善の第一歩です。
2. 既設設備との整合性を確認する
電源系統やTMS・サーバーとの連携可否を確認し、既存設備を最大限活かした省エネ導入が可能かを検討します。
3. 段階的な導入を前提に計画する
一部スクリーンで試験的に導入して効果を検証し、その後に館全体へ展開するステップ型のアプローチを採用することで、リスクを抑えられます。
4. 運用設計を明確にする
「上映スケジュール=電力稼働スケジュール」となるよう、TMS設定や機器制御のルールを整理し、運用側でブレが生じないようにします。
ここまでで説明してきたように、海外ではすでに自動制御による省エネが一般化しつつあります。これらの取り組みは、国内の改善検討においても「具体的に何から取り組むべきか」を考えるヒントになります。
さいごに
映画館の省エネ運用は、いまや「環境配慮」という枠を超え、経営効率の向上に直結する重要なテーマとなっています。
PAA20+オートメーションアダプターのようなTMS連携型の制御機器は、上映スケジュールに合わせてムダな稼働を抑える「実務的な省エネ施策」として、電力コストの削減だけでなく、運用の標準化や作業負荷の軽減にも大きく貢献します。海外ではすでに多くの劇場で導入が進んでおり、こうした実績は日本の映画館においても十分に応用可能です。
今後の電力単価の上昇や環境規制の強化を見据えると、まずは「見えていない無駄」を可視化し、段階的に改善していくことが次の一手となります。省エネは、すべてを一度に変える必要はありません。海外事例をヒントに、貴館に最適な省エネ戦略を描いてみませんか。
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