SASE時代のセキュリティーポリシー設計とは? 〜複雑化を防ぐ2つの視点と5つのモデル〜
SASEやSSEの導入が進む中で、多くの企業が直面するのが「セキュリティーポリシーの管理が複雑化する」という課題です。
- ルールが増えすぎて全体像が把握できない
- セキュリティー機能ごとに設定が分断されている
- 変更の影響範囲が読めず、運用が属人化する
こうした課題は、単なる運用上の工夫ではなく、「ポリシー設計そのもの」に起因しているケースが少なくありません。
本記事では、現代のセキュリティープラットフォームにおけるルール管理の考え方を整理し、代表的な設計パターンとその違いを解説します。あわせて、スケーラブルなポリシー設計に求められる要件についても紹介します。
なぜセキュリティーポリシーは複雑化するのか
近年のセキュリティー環境は、従来の境界防御型モデルから大きく変化しています。社内と社外を明確に分けて管理する前提は崩れ、ユーザーやアプリケーション、データが分散する中で、より柔軟かつ高度な制御が求められるようになりました。
その背景には、SaaS利用の拡大やリモートワークの普及、さらに生成AI(GenAI)やプライベートアプリケーションの増加といった変化があります。これにより、アクセスの主体や経路、扱うデータの性質が多様化し、従来のような単純な条件ではリスクを判断しきれなくなっています。
こうした環境では、同じユーザーによる通信であっても、利用するアプリケーションや接続先、扱うデータの内容によってリスクは大きく異なります。そのため現在のセキュリティーポリシーでは、以下のような複数の要素を組み合わせて判断することが前提となっています。
- ユーザー属性
- アプリケーション種別
- 接続先(インターネット/SaaS/社内)
- データ内容
- 振る舞いやコンテキスト
さらに、このような多面的な判断を実現するために、セキュリティー機能自体も多層化しています。DLPやマルウェア対策、URLフィルタリングに加え、GenAI利用に伴うプロンプト検査やコンテンツ分類など、新たな制御が組み込まれることで、複数のエンジンが連携して1つの通信を評価する構造が一般化しています。
このように、「判断に必要な要素の増加」と「セキュリティー機能の多層化」が同時に進んだ結果、ポリシーは構造的に複雑化しています。
そして重要なのは、この複雑さが単なる設定項目の増加にとどまらず、運用面にも直接的な影響を及ぼす点です。ルールの全体像が把握しづらくなり、変更時の影響範囲も見えにくくなります。さらに、複数のエンジンが関与することで判断の不整合が発生し、トラブルシュートに時間を要するケースも増えていきます。
こうした課題を防ぐためには、「どのようにルールを整理するか」を設計段階から意識することが不可欠です。セキュリティーポリシーの構造は、単なる設定の問題ではなく、運用性や拡張性を左右する重要なアーキテクチャー要素となっています。
セキュリティーポリシー設計の2つの視点
前章で見てきたように、セキュリティーポリシーの複雑化は、単にルールの数が増えることだけが原因ではありません。本質は、判断に必要な要素が増え、複数のセキュリティー機能が関与する中で、「どのように構造化するか」が問われている点です。
このとき重要になるのが、ポリシーをどの観点で整理するかという設計視点です。整理の軸が曖昧なままルールを追加していくと、全体像が見えなくなり、結果として運用負荷やリスクが増大してしまいます。
セキュリティーポリシー設計を体系的に理解するうえでは、主に次の2つの観点に分けて考えることが有効です。
- ルールをどのようにグルーピングするか(Ruleの構造)
- ポリシーをどのように適用・再利用するか(スコープと管理)
前者は「どの単位でルールを整理するか」という構造の問題であり、可読性や判断の一貫性に大きく影響します。一方で後者は「どの範囲にどのポリシーを適用するか」という管理の問題であり、スケーラビリティや運用効率に直結します。
重要なのは、これら2つの観点が独立しているという点です。つまり、ルールのまとめ方とポリシーの適用方法は別々に設計でき、それぞれの組み合わせによって、全体のアーキテクチャーが決まります。
セキュリティーポリシー設計における5つのアーキテクチャーパターン
セキュリティーポリシーの設計は、「ルールをどのように整理するか」と「それをどのように適用・再利用するか」という2つの観点の組み合わせによって成り立ちます。
この2つの視点を分けて考えることで、複雑に見えるポリシー設計も、いくつかの代表的なパターンとして整理することが可能になります。本章では、それぞれの観点に基づく5つの設計モデルを紹介します。
観点1. ルールのグルーピング(構造設計)
1. セキュリティー機能ごとにルールを分ける(分散型モデル)
従来から広く採用されてきたのが、セキュリティー機能ごとに独立したルールを持つ構成です。ファイアウォールやIDS/IPS、DLP、マルウェア対策、URLフィルタリングなどがそれぞれ個別に判断をおこない、近年ではGenAI関連の制御も別のエンジンとして追加されています。
このモデルは、専門領域ごとに最適化された制御を実現できる一方で、全体を横断した統一的な管理が難しくなる傾向があります。
特徴
- 分野ごとに高度で専門的な制御が可能
- チーム単位で独立した運用がしやすい
課題
- 可視性が分断される
- エンジン間で判断が衝突する可能性がある
- 機能増加に伴い運用負荷が増大する
2. すべてのルールを1つに統合する(統合型モデル)
分散による複雑さを解消するために、すべてのポリシーを単一のルールベースにまとめるアプローチも広く採用されてきました。ユーザーやアプリケーション、接続先といった条件と、各種検査処理を1つのルールとして定義します。
これにより、「どのルールがどの判断をしているのか」が明確になり、運用の透明性が向上します。
特徴
- 1つのルールで意思決定が完結する
- 監査やトラブルシュートがしやすい
- ゼロトラストの考え方と親和性が高い
課題
- ルール数が増大しやすい
- 変更の影響範囲が広がる
- ガバナンスが集中し、ボトルネックになりやすい
3. 接続先ごとにルールを分ける(宛先ベースモデル)
近年主流となりつつあるのが、トラフィックの「行き先」に基づいてルールを整理する方法です。インターネット、SaaS、プライベートアプリケーションといった接続先ごとにポリシーを分けることで、アクセスの意図に沿った設計が可能になります。
このアプローチは直感的に理解しやすく、管理者にとって扱いやすい点が特徴です。
特徴
- アクセス意図ごとに整理され、理解しやすい
- ポリシーの意味が明確になる
- トラフィック特性ごとに処理を最適化しやすい
課題
- 単独ではポリシーの肥大化を防げない
- 組織全体での再利用設計が別途必要
観点2. ポリシーの適用と再利用(スコープ設計)
4. コンフィグレーションプロファイル(ポリシーの部品化)
ポリシーを再利用可能な単位として扱うための代表的な方法が、コンフィグレーションプロファイルです。アクセス制御ルールや検査設定をひとまとまりにし、拠点やユーザーグループに適用します。
これにより、ルールに個別のスコープ条件を埋め込む必要がなくなり、全体の構造が整理されます。
メリット
- ルールの重複を防止できる
- 可読性・保守性が向上する
- 権限管理と組み合わせやすい
課題
- プロファイル設計が不適切だと、かえって構造が複雑化する
- 共通化しすぎると、個別要件への対応がしづらくなる
- プロファイル間の関係性が増えると、全体像の把握が難しくなる
5. ポリシー継承(階層型モデル)
ポリシーを階層構造で管理し、共通ルールをベースとして各レイヤーで上書きしていく方法です。全社共通のポリシーを定義し、その上に地域別・拠点別のポリシーを重ねることで、統一性と柔軟性を両立します。
ただし、構造が複雑になると、どのルールが最終的に適用されるのかを把握する難易度が上がる点には注意が必要です。
メリット
- 共通ルールを効率的に再利用できる
- 必要に応じたカスタマイズが可能
課題
- 設計が複雑になりやすい
- 実際の適用結果が分かりにくくなる
これからのセキュリティーポリシー設計に求められる考え方
ここまで見てきた5つの設計パターンは、それぞれが独立したものではなく、実際のSASE/SSEプラットフォームでは組み合わせて使われるのが一般的です。
たとえば、ルールの構造としては宛先ベースで整理しつつ、ポリシーの適用にはコンフィグレーションプロファイルを用い、さらに必要に応じて継承による柔軟性を持たせる、といった形です。このように複数のアプローチを組み合わせることで、可読性・拡張性・運用性のバランスを取る設計が主流となっています。
重要なのは、セキュリティーの複雑さそのものを排除することではなく、それを「制御可能な構造」として整理することです。むしろ、環境の変化に伴い複雑さは今後も増していく前提で、それを前提にした設計が求められます。
その背景には、近年のセキュリティー要件の変化があります。SaaSやプライベートアプリケーションの普及、生成AIの業務利用などにより、セキュリティー判断はより高度で多面的なものになっています。また、DLPやマルウェア対策、コンテンツ検査など、多数のセキュリティーエンジンが関与する構造も一般化しています。
こうした環境に対応するため、これからのポリシー設計では、以下のような要件がより重要になります。
- コンテキストに基づいた柔軟なアクセス制御ができること
- 必要な通信に対してのみ検査をおこなうなど、処理を最適化できること
- 複数のセキュリティー機能を一貫したポリシーとして統合できること
- 拠点・ユーザー・ワークロードをまたいでスケールできること
これらを実現するためには、個々のルールや機能だけでなく、ポリシー全体の設計原則が重要になります。具体的には、次のような考え方が求められます。
- ポリシーの意図が明確であること
- ルールと検査、適用範囲といった責務が適切に分離されていること
- 環境の変化に応じて、安全に拡張・変更できること
このような設計が実現できているかどうかが、セキュリティー運用の負荷や柔軟性、さらには将来的な拡張性を大きく左右します。
さいごに:セキュリティーポリシー設計は「複雑さを構造化すること」が鍵
セキュリティーポリシーの設計は、単にルールを追加していく作業ではなく、全体の構造をどのように整理するかというアーキテクチャーの問題です。特にSASEやSSEのような統合型プラットフォームでは、設計の違いが運用負荷や可視性、拡張性に大きく影響します。
本記事で紹介したように、ポリシー設計は「ルールのグルーピング」と「適用・再利用」という2つの観点で整理することが重要です。複雑さを排除するのではなく、制御可能な構造として設計できるかどうかが、安定した運用と将来的な拡張性を左右します。
SASEやUnified SASEは、こうした要件に対応するための設計思想の一つです。もし「自社の場合はどのように設計すべきか」と感じたら、その段階でのご相談でも構いません。現状整理や課題の切り分けからお手伝いしていますので、お気軽にお問い合わせください。
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