なぜ今SASEなのか?複雑化するネットワークとセキュリティ運用の限界
企業のIT環境は、クラウド化やSaaSの普及、リモートワークの定着によって、この10年で大きく様変わりしました。かつてのように「社内ネットワークを守る」だけでは不十分な時代になっています。
その変化に対応するため、多くの企業は用途ごとに新しいセキュリティ製品やサービスを導入してきました。しかしその結果、ツールが増えるほど運用は複雑化し、かえってリスクや負担が高まっているケースも少なくありません。
本記事では、こうした状態が生まれる背景にある「サイバーセキュリティ・スプロール」の実態を整理し、なぜ従来の対症療法的な対策が限界を迎えているのか、そして今求められるセキュリティの考え方について解説します。
現場で起きている現実:ツールは増えたのに、なぜ楽にならないのか
クラウドサービスの利用拡大、SaaSの普及、そしてリモートワークやハイブリッドワークの定着。こうした変化に対応するため、企業はその時々の課題に応じて、さまざまなセキュリティ製品やネットワークサービスを導入してきました。
クラウド向けの各種セキュリティ、リモートアクセス用の仕組み、SaaS利用を可視化するCASB、Webアクセス制御のためのSWG、エンドポイント保護、マルウェア対策、侵入検知――。どれも当時としては合理的で、必要な判断だったはずです。
しかしそれらの積み重ねの結果、セキュリティツールやプラットフォームが無秩序に増え続けてしまう状態が生まれています。これが、いわゆる「サイバーセキュリティ・スプロール」です。
一つひとつの製品は確かに役割を果たしています。ですが、それらが全体として有機的につながっていない場合、別の問題を引き起こします。
たとえば、ある拠点ではSD-WAN、別の拠点では従来型VPN。クラウドアクセスにはCASB、WebアクセスにはSWG、エンドポイントには別ベンダーのエージェント。
結果として、管理コンソールは複数に分かれ、ポリシーの書き方もログの見方もバラバラになります。この状態でインシデントが発生すると、どこから調査すべきか分からず、複数のツールを横断してログを突き合わせる必要が出てきます。対応が遅れるだけでなく、「本当に全部カバーできているのか?」という不安も常につきまといます。
このように、セキュリティ強化のために増やしたはずのツールが、結果として新たなリスクと運用負荷を生んでいる――。これが、いま多くの企業が直面している現実です。
複雑化を招いた本当の原因は何か:セキュリティ運用が歪んでいった構造的背景
サイバーセキュリティ・スプロールは、偶然や場当たり的な判断だけで生まれたものではありません。そこには、IT環境の変化とともに積み重なってきた、いくつかの構造的な歪みがあります。
なぜ、ここまで複雑になってしまったのか
サイバーセキュリティ・スプロールが生まれた背景には、構造的な要因があります。単に「製品を入れすぎたから」では片づけられません。
大きな要因の一つは、IT環境そのものが分散・多層化してきたことです。業務アプリケーションはデータセンターだけでなく、複数のクラウドやSaaS上に存在し、ユーザーはオフィス、自宅、出張先など、さまざまな場所からアクセスします。
さらに、セキュリティ製品の市場自体も細分化が進みました。特定の脅威や用途に特化した製品が次々と登場し、「この課題にはこの製品が最適」という判断を繰り返すうちに、全体像が見えなくなっていきます。
この流れを整理すると、背景には次のような要因が重なっています。
- クラウドやSaaSの急速な普及により、新しい攻撃面(アタックサーフェス)が次々と生まれた
- リモートワークの定着により、社外からの安全なアクセス手段が不可欠になった
- シャドーITやシャドーAIの増加により、IT部門が把握できない利用実態が広がった
- 規制やコンプライアンス要件が高度化し、可視化や証跡管理がより厳しく求められるようになった
- セキュリティ製品ベンダーが乱立し、用途別に「最適解」が提示され続けてきた
これらはいずれも、避けがたい環境変化です。問題は、それらへの対応が「その場しのぎの製品追加」になりやすかった点にあります。
「ツールを減らす」ことが本質ではない
こうした話をすると、「ではツールを減らせばいいのか」という結論に飛びがちです。しかし、問題の本質はツールの数そのものではありません。
本当の問題は、次のポイントにあります。
- ネットワークとセキュリティが別々の思想で設計されていること
- ポリシー、可視性、運用が製品単位で分断されていること
たとえ製品数が少なくても、それぞれが独立して動いていれば、同じ問題は形を変えて残ります。逆に言えば、数が多少多くても、ポリシーと可視性が統合され、一貫した運用ができていれば、スプロールは起きにくくなります。
ここで必要なのは、「点」で対処する発想から、「構造」を見直す発想への転換です。
ネットワークとセキュリティの分断が生む「見えない限界」
先述した背景に加えてもう一つ、見過ごせない構造的な問題があります。それは、ネットワークとセキュリティが、いまだに別物として設計・運用されていることです。
分断されたネットワーク・セキュリティ設計が生む運用上の問題
多くの企業では、WANはWAN、ファイアウォールはファイアウォール、リモートアクセスは別製品、クラウドセキュリティも別製品という形で、それぞれが独立して導入されています。その結果、同じ通信に対して、異なるレイヤーで別々のポリシーが適用される、ということが起こります。
たとえば、拠点からクラウドへの通信は通してよいが、リモートユーザーから同じクラウドへの通信は別のルールになる、といった具合です。意図せずポリシーに「穴」が空いたり、逆に厳しすぎて業務に支障が出たりということも珍しくありません。
この分断構造は、次のような形で現場を苦しめます。
- ポリシーを一貫して適用できず、例外ルールが増え続ける
- アラートやログが製品ごとに分断され、相関分析が難しい
- どこまで守れているのかを、誰も即答できない
これは単なる運用上の不便さではなく、企業全体のセキュリティ成熟度を押し下げる要因になっています。
運用現場に現れ始めている「限界」の兆候
多くの企業はすでに、気づかないうちに限界点を越えつつあります。現場から聞こえてくる声を拾うと、次のような兆候が見えてきます。
- 新しいツールを入れても、セキュリティレベルが上がった実感がない
- 障害やインシデント対応のたびに、調査と切り分けに異常に時間がかかる
- 運用担当者が特定の人に属人化し、引き継ぎが難しくなっている
- コストは増え続けているのに、経営に説明できる成果が出せない
これらはすべて、「部分最適の積み重ね」が限界に達しているサインです。
限界の先に出てきた設計思想:SASEとUnified SASEという考え方
こうした構造的な問題に対する一つの答えとして登場したのが、SASE(Secure Access Service Edge)です。
SASEの本質とポイント
SASEの本質は、単にクラウド型のセキュリティ製品を束ねたものではありません。ネットワークとセキュリティを最初から一体のものとして設計し、ユーザーや拠点、アプリケーションの場所に依存しない形で、同じポリシーと同じ可視性を提供しようという思想です。
この考え方に立つと、
- 拠点からでも
- リモートからでも
- クラウドからでも
「誰が、どこから、何にアクセスしているのか」を同じ基準で捉え、同じルールで制御できるようになります。
つまりSASEは、増え続けるツールを「まとめる」ための言葉というよりも、バラバラに進化してしまったネットワークとセキュリティを、もう一度「一つの設計思想に引き戻す」ための枠組みだと捉えたほうが近いでしょう。
Unified SASEというアプローチ
SASEという思想を、より現実的な運用モデルとして具現化しようとする動きが「Unified SASE」です。ネットワークとセキュリティを単に「連携」させるのではなく、最初から一つのプラットフォームとして提供するという発想です。
このアプローチでは、
- ポリシーは一か所で定義され
- 可視性はエンドツーエンドで確保され
- 運用は単一の管理基盤からおこなえる
という状態を目指します。
こうした設計により、スプロールの根本原因である「分断」を構造的に解消することが可能になります。
実装の一例としてのAryaka
Unified SASEという考え方を、実サービスとして提供している例の一つが、AryakaのUnified SASE as a Serviceです。
Aryakaは、SD-WAN、セキュリティ機能、可観測性(オブザーバビリティ)を単一のアーキテクチャー上に統合し、グローバルに提供するモデルを採っています。ネットワークとセキュリティを別製品として後付けするのではなく、最初から一体として設計している点が特徴です。
ここで重要なのは、特定ベンダーの製品名ではなく、「こうした構造で提供されるサービスが現実に登場している」という事実そのものです。Unified SASEは、単なる概念論ではなく、すでに運用モデルとして実装可能な段階に入っているということです。
さいごに:必要なのは「製品選定」ではなく「設計思想の転換」
クラウドやSaaS、リモートワークが当たり前になった現在、「サイバーセキュリティ・スプロール」と化しているセキュリティ運用の複雑化は、個々の判断ミスではなく、環境変化の中で積み重なってきた構造的な問題だと言えます。ツールを増やし続ける対症療法では、その歪みを解消することはできません。
本当に見直すべきなのは、「何を入れるか」ではなく、「どの思想で全体を設計しているか」です。ネットワークとセキュリティを分断したままでは、可視性も運用も限界を迎え、結果としてリスクと負担が増え続けてしまいます。
SASEやUnified SASEは、そうした行き詰まりの先に現れた設計思想の一つです。もし「自社の場合はどう考えるべきか」と感じたら、その段階でのご相談でも構いません。現状整理や課題の切り分けからお手伝いしていますので、お気軽にお問い合わせください。
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