なぜホテルで「キャスティング」が求められているのか 〜客室テレビの使われ方と視聴環境の変化〜
ホテルの客室テレビは、かつては地上波放送を視聴するための設備でしたが、動画配信サービスの普及により役割が変わりつつあります。宿泊客の多くは、スマートフォンなどに自分専用の視聴環境を持つようになりました。
その結果、客室テレビには「何が映るか」ではなく「自分のデバイスの画面を安全かつ簡単に表示できるか」が求められるようになり、これに応える手段として、キャスティングが注目されています。
本記事では、ホテルでキャスティングが求められる背景について、利用実態や運用上の課題などを整理しつつ、客室テレビ環境における導入・設計時の考え方を解説します。
※ここでは、スマートフォンなどの個人デバイスの画面を客室テレビに表示する機能を「キャスト機能」、その仕組みや運用を含めた考え方を「キャスティング」と呼びます。
宿泊客のテレビ視聴スタイルが大きく変わった
キャスティングが注目される背景には、宿泊客側の視聴行動そのものが、すでに変化しているという事実があります。
スマートフォン起点の動画鑑賞が当たり前になった
現在、動画視聴の起点はテレビではなく、スマートフォンです。
- 視聴するコンテンツを探す
- 再生履歴やおすすめを見る
- アカウントを切り替える
こうした操作はすべて、スマートフォン上で完結しています。
テレビは「操作する端末」ではなく、「映像を大きく表示するための出力先」として使われるケースが増えています。この前提に立つと、スマートフォンから操作できるキャスティングは、宿泊客の行動と非常に自然に噛み合う仕組みと言えます。
地上波を見ない層が一定数存在するようになった
もう一つの変化は、客室テレビで地上波放送をほとんど見ない宿泊客が珍しくなくなった点です。
これは若年層やインバウンド客に限らず、
- 出張利用のビジネス客
- 短時間滞在の宿泊客
にも共通して見られます。
「テレビはあるが、実際には使われていない」状態は、客室設備としての価値が十分に活かされていないことを意味します。
キャスティングは、既存のテレビを「使われる設備」に変える手段としても位置づけられています。
スマートテレビ運用における課題
動画視聴ニーズへの対応策として、スマートテレビを導入するホテルも増えてきました。しかし、実際の運用を通じて、いくつかの課題も明らかになっています。
アカウント管理・履歴残存の問題
スマートテレビでは、YouTubeや各種動画配信サービスにログインして利用します。
その結果、ホテルモード(客室向けテレビに適した運用管理機能)を搭載していないテレビでは、
- 宿泊客のログアウト忘れ
- 視聴履歴やおすすめ表示が残る
- 次の宿泊客がそれを見る可能性
といった問題が発生します。
運用ルールやチェック体制を整えることは可能ですが、客室数が多い施設ほど、人的運用で完全に防ぐのは難しいのが実情です。
機器更新・操作説明の負担
スマートテレビは、テレビ本体にOSやアプリを内蔵しているため、
- OSやアプリの更新対応
- サポート終了リスク
- テレビ買い替えとのタイミング調整
といった点で制約があります。
また、操作がリモコン中心になるため、
- 操作方法が分かりにくい
- フロントへの問い合わせが増える
といった運用負荷につながるケースも見られます。
これらの背景から、「スマートテレビ一択」ではない運用設計が検討されるようになっています。
キャスティングが注目される理由とは
キャスティングとは、スマートフォンやタブレットなどの端末から操作し、動画や音声の再生先をテレビに切り替える仕組みです。ホテル側が動画アプリやアカウントを用意する必要はなく、宿泊客は自分の端末・自分のアカウントを使って視聴します。
この仕組みには、
- アカウント情報がテレビに残らない
- 操作に迷いにくい
- 宿泊客ごとの好みに自然に対応できる
といった特長があります。
これは、前章で触れた視聴スタイルの変化やスマートテレビ運用の課題に対する、現実的かつ合理的な解決策として評価されています。
キャスティングとスマートテレビの違いを整理する
キャスティングとスマートテレビは、同じ「動画視聴対応」という目的を持ちながら、設計思想が大きく異なります。
キャスティング
キャスティングは、宿泊客自身のスマートフォンなどの個人デバイスを起点として、動画や音楽を客室テレビに表示する仕組みです。操作やアカウント管理は宿泊客側で完結するため、ホテル側の運用負荷や個人情報管理のリスクを抑えやすい点が特徴です。
- 操作主体:宿泊客のスマートフォン
- アカウント:宿泊客自身が管理
- テレビの役割:映像・音声の出力先
スマートテレビ
スマートテレビは、テレビ自体がアプリを実行し、リモコン操作によって動画配信サービスなどを利用する方式です。テレビが操作と再生の中心となるため、アカウント管理や運用ルールの設計が必要になります。
- 操作主体:テレビのリモコン
- アカウント:テレビ側でログイン
- テレビの役割:操作と再生の中心
ここで重要なのは、どちらが優れているかではなく、客室テレビを「操作の中心」として使うのか、「個人デバイスの表示先」として使うのかという運用上の位置づけです。この考え方を整理しておくことで、機器選定や機能設定の判断がしやすくなります。
ホテルで使われる主なキャスティングの方式と特徴
ホテルで利用されるキャスティングは、主に「AirPlay」と「Miracast」の2つがあります。
AirPlayによるキャスティング
AirPlayは、Appleが提供するキャスティング技術です。
- iPhone / iPad / Mac に標準対応
- 動画や音声をテレビ側で再生
- 端末のアカウント情報をテレビに残さない
iOS端末利用者にとって操作が直感的で、ホテル用途でも比較的導入しやすい方式です。
一方で、Apple端末以外からは利用できないため、施設の客層によっては補完手段を検討する必要があります。
Miracastによる画面ミラーリング
Miracastは、Wi-Fi Allianceが策定した標準規格で、Android端末やWindows PCなどで広く対応しています。
- 端末画面をそのままテレビに映す方式
- 対応端末の幅が広い
ただし、Miracastは一般的に画面全体を転送する仕組みのため、
- 通信品質の影響をより受けやすい
- 通知や個人情報が表示される可能性
といった点には注意が必要です。
なお、こうしたキャスティングの機能は外付け端末だけでなく、ホテル向けインフォメーションシステムに統合されているケースもあります。
例えば、当社で取り扱っている「Inforia」では、客室テレビ向け機能の一つとしてキャスト機能を備えた構成にも対応しています。館内案内やホテルインフォメーションとあわせてテレビ周りの機能をまとめて運用したい施設では、こうした選択肢も検討対象となるでしょう。
さいごに
客室テレビにおけるキャスト機能は、動画配信サービスの普及によって変化した宿泊客の視聴行動に対応するための、有効な選択肢のひとつです。操作やアカウント管理を宿泊客側に委ねられる点は、ホテル運用の負荷軽減にもつながります。
一方で、キャスト機能は単なる付加機能ではなく、客室テレビをどのような役割で運用するかという設計思想と密接に関わります。機能の有無だけで判断するのではなく、実際の利用シーンや管理面まで含めて整理することが重要です。
当社では、ホテルなど多くの宿泊施設向けに、Wi-Fiの導入・改善に加え、客室テレビや関連機器の提供を含めたご提案をおこなっています。客室テレビやキャスト機能の運用でお悩みがあれば、どんなに些細なことでも問題ありませんので、お問合せフォームよりご相談いただけましたら幸いです。
関連コンテンツのご紹介
サービス紹介ページ
ブロードメディアでは、ホテルや病院、キャンプ場、大型施設などへ、快適なネットワーク・Wi-Fi環境の設計・構築・保守サービスを提供しています。
当社では20年以上にわたってWi-Fiサービスを提供しており、10万室以上のホテル客室への導入実績を有しています。
Wi-Fiのプロとして、その構築や運用を強力にサポートしています。
Wi-Fi環境の導入のご検討や、お困りのことがありましたら、ぜひご相談・お問い合わせください。


