ECサイトを狙うAPI攻撃と次世代WAFによる対策ポイント〜WAAPで包括防御〜
近年、オンラインショッピングが当たり前となり、ECサイトは企業の売上を支える重要な存在です。しかしその裏で、個人情報や決済情報を狙ったサイバー攻撃は増加しており、対策を怠れば企業の信頼や売上に深刻な影響を及ぼします。
特にECサイトは、ユーザー情報や決済処理をおこなう多くのAPIが内部連携の「窓口」として機能しており、一つひとつが攻撃の入口になりやすい課題があります。
本記事では、ECサイトに求められるAPIセキュリティの考え方や、次世代版WAF「WAAP」による対策・導入のポイントを解説します。
ECサイトを狙うAPI攻撃とリスク
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の観測によると、2023年のサイバー攻撃関連通信量は2015年比で約9.8倍に増加しており、東京商工リサーチの調査でも2024年の情報漏洩事故が過去最多を更新しています。こうした統計は、規模や業種を問わず多くの企業が、サイバー攻撃の対象になっていることを示しています。
中でもECサイトは、商品検索やカート、決済、配送ステータス確認などといった複数の機能をAPI経由で提供しており、従来のWebアプリケーションと比べてデータベースや他社システムへのアクセス範囲が広いことから、攻撃者にとって狙いやすい環境になっています。
以下に、代表的な攻撃手法とリスクを整理します。
| 攻撃手法 | 概要 | リスク(被害例) |
|---|---|---|
| SQLインジェクション | 入力フォームに悪意あるSQLコードを仕込み、データベースから顧客情報を窃取する攻撃 | 顧客の氏名やカード情報が流出し、損害賠償や信用失墜につながる |
| クロスサイトスクリプティング(XSS) | 悪意あるスクリプトをページに埋め込み、ユーザーのブラウザ上で実行させる攻撃 | セッション乗っ取りやフィッシングサイトへの誘導による不正購入 |
| Bot・スクレイピング | 在庫や価格を狙う自動ツール | 不正コピーや価格改ざん、競合優位性の侵害 |
| DDoS攻撃 | 複数のデバイスから大量のトラフィックを送り付け、サービスを停止させる攻撃 | サイトの停止により売上損失や顧客離脱が発生 |
多くのECサイトでは、商品・注文データをやり取りするために、RESTやGraphQLといったAPIをパートナー企業やモバイルアプリと共有しています。認証・認可の設定が不十分であったり、入力値検証に抜け漏れがあったりすると、攻撃者に不正アクセスの余地を与えてしまいます。そのため、APIゲートウェイやフレームワークの標準機能だけに頼るのではなく、API特有の脅威をカバーできる専用のセキュリティ対策が必要です。
上に挙げた以外にも、流出したIDとパスワードを悪用してアカウントを乗っ取る「リスト型攻撃」や、ソフトウェアの未知の脆弱性を突く「ゼロデイ攻撃」など、多様な攻撃手法が確認されています。攻撃者はECサイトの規模や技術力に関係なく、脆弱なAPIを見つけると、自動化ツールで集中的に攻撃を仕掛けます。攻撃の手口が高度化し、対象範囲も広がっていることから、個別対策だけでは不十分であり、より包括的な防御が求められています。
APIを守るための基本対策
前章で述べたように、APIは狙われるポイントが多く、単一の対策では攻撃を防ぎきれません。そのため、APIを安全に運用するには、設計段階から複数の仕組みを組み合わせることが重要です。
以下に、特にECサイトで押さえておきたい基本対策をまとめます。
1. 強固な認証・認可
OAuth2やJWTなどで認証を厳格にし、アクセス権限を最小限に絞ります。APIキーやアクセストークンの管理方法を徹底することも不可欠です。
2. レート制限とスロットリング
同一IPやアカウントからの過剰なリクエストを制限し、ブルートフォース攻撃やBotによる不正アクセスを抑制します。
3. 入力値の検証(バリデーション)とJSONスキーマ検証
APIが受け取るパラメーターやJSONの構造をサーバー側で厳密にチェックし、想定外の値やフィールドを拒否することで、SQLインジェクションやXSSなどを防ぎます。
4. 暗号化と運用監視
通信はTLSで暗号化し、保存データも必要に応じて暗号化します。また、アクセスログの監視や異常検知の仕組みを整え、問題発生時に迅速に遮断・対応できる体制を構築します。
これらの基本対策に加え、次の章でご説明する「WAAP」を組み合わせることで、API特有の脅威にも対応でき、多層的で強固な防御を実現できます。
WAFの次世代版「WAAP」とは 〜APIを守る盾〜
近年は、攻撃対象がネットワーク層からアプリケーション層、さらにAPIへと移りつつあります。前述のように、特にECサイトやオンラインサービスでは、ログイン、注文処理、在庫管理など多くの仕組みが APIによって動いており、攻撃者にとって格好の標的となっています。
こうした背景の中で、従来のWAFだけでは防ぎにくい攻撃にも対応できる「WAAP(Web Application and API Protection)」が注目されています。ここではWAFについて振り返りつつ、WAAPの特徴についてご説明します。
WAFの役割
WAF(Web Application Firewall)はWebサイトやアプリケーションの防御に特化した仕組みで、主に以下の機能によって、攻撃から守ります。
- アプリケーション層の攻撃対策:
SQLインジェクション、XSS、ファイルインクルードなどを検知・ブロック - シグネチャー+挙動分析:
既知の脆弱性や、異常なアクセスパターンから未知の攻撃も検出 - DoS緩和:
過剰リクエストをブロックし、サービス停止を防止 - ポリシー設定:
対象ごとに防御ルールを設定可能
WAAPが登場した理由と特徴
APIの利用が爆発的に増えたことで、攻撃の矛先もAPIに集中するようになりました。そこで登場したのが、「WebとAPIの両方をまとめて守る」ことを前提に設計されたWAAPです。
WAAPではWAFの強みを引き継ぎつつ、さらに次のような高度機能を備えています。
APIの自動保護
APIエンドポイントを自動で検出し、仕様と異なるリクエストを遮断します。GraphQLのような複雑なクエリーにも対応できます。
高度なBot管理
スクレイピングや不正ログイン(クレデンシャルスタッフィング)をおこなう悪質なBotを判別し、正規ユーザーだけがアクセスできるよう制御します。
ゼロデイ攻撃への迅速対応
最新の脅威インテリジェンスを利用し、公開されていない脆弱性を狙った攻撃にもリアルタイムで対応可能です。
DDoS防御基盤との統合
分散されたエッジサーバーで過剰トラフィックを吸収し、サービス停止を防ぐ堅牢な防御を実現します。
特に当社の提供するAkamai WAAPでは、プラットフォーム全体で最新の脅威インテリジェンスが共有され、シグネチャーも自動更新されるため、API攻撃を含む新しい脅威へも迅速に対応できます。
ECサイトにおけるWAAPのメリットと活用例
ECサイトは多くのAPIやユーザー情報を扱うため、サイバー攻撃のリスクが高い環境にあります。WAAPを導入することで、セキュリティ強化と運用効率化の両立が可能となり、ビジネスの安定性と信頼性を高められます。本章では、WAAP導入による具体的なメリットと、実務での活用シナリオを紹介します。
WAAP導入によるビジネスメリット
WAAPを活用すると、単にセキュリティが向上するだけでなく、ECサイト運営における多角的なメリットを得られます。以下に、主要なものを整理してご紹介します。
顧客情報の保護とコンプライアンス遵守
個人情報保護法やPCI DSSなどの規制に準拠したセキュリティ水準を維持できます。顧客情報や決済情報の漏洩リスクを低減することで、ブランド信頼の向上や法令遵守による企業リスクの回避が可能です。
売上機会の確保
DDoS攻撃や不正アクセスによるサービス停止を防ぎ、セールやキャンペーン時などのピーク時も安定したサービス提供が可能です。結果として、機会損失を防ぎ、売上の最大化に貢献します。
運用負担の軽減
攻撃の検知・分析やポリシー運用をクラウドサービス側で管理できるため、社内のセキュリティ担当者の負荷を大幅に削減できます。定期的なルール更新やログ監視も自動化され、運用コストを抑えながら安全性を確保できます。
API利用拡大への対応
パートナー企業やモバイルアプリとの連携が増えても、API保護機能によりセキュリティリスクを抑制できます。新サービスの展開や機能追加時も、セキュリティ面の心配なくビジネスを拡張可能です。
顧客体験の向上
Bot制御や異常トラフィックの緩和により、正規ユーザーによるアクセスや購入体験が妨げられません。安全性を維持しつつ、快適なサイト利用を実現できます。
WAAPの活用シナリオ
具体的な導入効果をイメージするため、ECサイトでWAAPがどのように機能するか、代表的なシナリオをご紹介します。今回は、決済APIの保護とセール期間中のDDoS緩和について、それぞれ見ていきます。
シナリオ1:決済APIへの不正アクセスを検知
外部決済サービスと連携するAPIが夜間に大量リクエストを受けた場合、WAAPはAPIスキーマと一致しない異常クエリを検知して、不正アクセスを遮断します。これにより、サービス停止やデータ漏洩のリスクを抑え、開発チームはAPI認証や入力検証の改善に集中できます。
シナリオ2:セール期間中のDDoS攻撃を緩和
大型セール中にBotネットを用いたDDoS攻撃が発生しても、WAAPサービスのネットワーク内で異常トラフィックを吸収し、顧客への影響を最小限に抑えます。さらにBot管理機能で不正クローラーをブロックし、正規ユーザーはスムーズに商品を閲覧・購入できます。
ECサイトへのWAAP導入で把握しておきたいポイント
WAAPを導入する際は、セキュリティ強化だけでなく、サイトの安定性や運用負荷も考慮することが重要です。導入時の確認ポイントとともに、運用時の費用や体制面についてご説明します。
導入時に確認すべきポイント
ECサイトにWAAPを導入する際は、可用性やセキュリティ機能、運用サポートなど、複数の観点から評価することが求められます。
可用性とパフォーマンス
ECサイトでは、わずかな遅延でも離脱率や売上に直結する可能性があるため、可用性だけでなく、パフォーマンスに関する取り決めがSLA(サービスレベル契約)に含まれているかも確認しましょう。
性能面の基本的な指標が明示されているサービスであれば、ピーク時でも安定稼働が期待できます。
セキュリティ機能の充実
通常のWAF単体では防げないAPI攻撃やBot、DDoS攻撃に対応できるかをチェックします。Bot管理やAPI保護、DDoS緩和がオールインワンで利用できるサービスが理想です。
WAAPは一般的に、WAF・Bot対策・API保護・DDoS緩和を包括して提供しますが、サービスごとに防御力や運用の一貫性には大きな差があります。特に、以下の点はECサイトの安定運用において重要です。
- 大規模な分散プラットフォームで、DDoSをインフラ層で吸収できるか
- Bot・API・WAFが共通基盤で動作し、設定・運用が統合されているか
- 脅威情報やシグネチャー更新が、プラットフォームレベルで反映されるか
これらが揃っているサービスほど、「部分最適ではなくプラットフォーム全体で守る」という構造になっており、結果として高いセキュリティ効果と運用負荷の軽減が期待できます。
運用とサポート体制
運用ポリシーの作成やアラート対応にかかる負荷を軽減できるかが重要です。マネージド型サービスの有無やサポート体制の充実度を比較し、社内リソースに合った体制を整えましょう。
費用・期間・運用体制の目安
導入にかかる費用や期間、運用体制はサイト規模や機能範囲によって異なります。
費用と導入期間
クラウド型・SaaSモデルのWAAPでは、一般的にトラフィック量や利用機能に応じた月額課金が採用されており、従来のアプライアンス型と異なり初期費用は少なく済む傾向にあります。
また、導入作業についてもDNS切り替えと基本ポリシー設定のみで開始できるケースが多く、数日〜数週間程度で本番稼働が可能です。
ローンチ後の運用体制
攻撃シグネチャーの更新やインフラ運用は、一般的にWAAPサービス提供側で実施されるため、社内での保守作業や追加ハードウェア投資は不要です。
さらに、24時間365日の監視やマネージドサービスを併用すれば、ECサイトの規模拡大やアクセス集中時も安心して運用できます。運用負荷が大幅に軽減されるため、セキュリティ対策が難しいとされてきた中小規模の事業者にとっても、導入のハードルが下がります。
まとめ:WAAPの包括的保護で、ECサイトの継続性・信頼性を高めよう
ECサイトは便利である一方、サイバー攻撃の標的にもなります。SQLインジェクションやXSSなどの古典的攻撃から、APIを狙う最新手法、DDoSやBotによる自動化攻撃まで、脅威は多様です。WAAPを採用することで、WebアプリケーションとAPIの両方を包括的に守り、ECビジネスの継続性と信頼性を高められます。
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