スターリンク(Starlink)とは何? 〜日本国内でも導入事例が続々!スマホ対応も間近の衛星インターネットアクセス〜
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米国の起業家イーロン・マスク氏の率いるスペースX社が展開する「スターリンク(Starlink)」について、ご存じでしょうか。
ウクライナ侵攻を受けたマスク氏によるサービス提供支援などをきっかけに、ニュースなどで取り上げられる機会も増えています。
この記事では、スターリンクの仕組みや従来の衛星インターネットとの違いとともに、メリットや活用事例についてもご紹介していきます。
スターリンクは、衛星インターネットアクセス
スターリンクを端的に言うと、衛星インターネットアクセスの1つです。
スペースX社によって独自に構築された衛星コンステレーション(多数の人工衛星を協調動作させる運用方式)を通じて、世界中のユーザーに高速かつ低遅延のインターネットを提供できるサービスです。
2022年10月11日に日本でのサービス開始がアナウンスされて以降、法人向け用途での利活用が広がっています。加えて、コストコなどの小売店店頭でも専用アンテナが販売されるなど、コンシューマー(個人)向けにも広がりつつあります。
スマートフォンからも直接、衛星インターネット
2024年12月にはKDDIが、auスマートフォンとスターリンクとの直接通信のサービス提供に向けて、総務省からの関連免許交付に加え、米国FCCからスターリンク衛星の電波発射許可を受けたことをアナウンスしています。その中で、ベータ版での技術検証を経て、2025年春頃からはサービス提供を本格化させるとしています。
そして2025年1月下旬には、スターリンクに関するアップル社からの公式アナウンスはないものの、このたびリリースされたiOS 18.3アップデートにて、スターリンク対応が組み込まれたと報じられています。
このように、法人だけでなく個人レベルでも、より手軽に衛星インターネットを利用できる環境が整いつつあるのです。
スターリンクのメリットと仕組み
スターリンクのメリット
スターリンクのメリットは、わかりやすいものでは大まかに、以下が挙げられます。
- 高速・低遅延での通信が可能
- カバーエリアが広い
(理論的に、"空を見られる"ところであれば通信可能)
これらを実現するための仕組みについて、後述していきます。
スターリンクの仕組み
前述したように、スターリンクでは人工衛星を用いて通信します。
私たちが普段利用するスマートフォンの場合には通常、地上に設置された基地局を通じてインターネットへ接続しますが、この基地局の役割を人工衛星が果たすと考えれば、理解しやすいかと思います。

サービス利用を申し込みの上、専用のアンテナを設置することで、固定回線を敷設することなくインターネットへ接続できるようになります。

なお、サービス開始当初では常設を前提としたアンテナのみが販売されていましたが、2025年1月からは可搬性の高い小型版アンテナ「Starlink Mini」が日本国内でも販売開始されています。そのため、持ち運びながら利用するニーズにも応えられるようになっています。

従来の衛星インターネットとの違い
衛星の軌道と数が違う
衛星インターネットアクセスの技術やサービスは、従来から存在していましたが、これらと大きく異なるのが、利用する衛星の軌道と数です。
従来の技術では通常、高軌道(高度36,000km)の静止衛星を利用するので、1機の衛星だけで広いエリアをカバーできます。しかし、通信の経由地が地表からはるか遠くなってしまう分、技術的制約から遅延(レイテンシー)が大きくなるというデメリットを抱えていました。
スターリンクは、低軌道で遅延問題をクリア
一方のスターリンクでは、従来の約65分の1にあたる高度550kmという低軌道の衛星を利用することで、遅延による問題をクリアしています。従来では300〜600ms程度とされていた遅延が、スターリンクでは公称20〜40ms程度となり、遜色ない低遅延を実現しています。
ダウンロード速度は公称50〜200Mbpsで、動画やオンラインゲームなどのようなリッチコンテンツへも難なく対応できるとされています。
なお、電波は距離の二乗に反比例して減衰することから、従来のおよそ4,200分の1の強さの電波でも通信できるようになり、大容量化にも貢献しています。

スターリンクでは、低軌道のために膨大な数の衛星を運用
しかし、低軌道による運用は、決して容易なものではありません。
高度550kmの衛星でカバーできるエリアは直径数百km程度とも言われ、従来のような広いエリアをカバーするには、膨大な数の衛星を打ち上げて運用する必要があります。このハードルの高さが、これまで技術進歩が停滞していた理由の一つです。
スターリンクでは、7,000機以上(2024年9月時点)にもおよぶ多数の衛星を打ち上げており、これらを効率的に運用することで、ハードルの高さを克服しています。広範囲にわたって衛星を点在させることで、広いエリアがカバーされるようになっています。
スターリンク衛星を効率よく打ち上げるための工夫
多数の衛星を打ち上げるためには、徹底的な効率化が求められます。
スターリンクの衛星は、スペースX社のロケット「Falcon 9」によって打ち上げられますが、打ち上げ1回あたり最大で50〜60機を積載でき、打ち上げ回数も2022年だけで40回以上(10月20日時点)となっています。
このように、多くの衛星を高頻度で効率よく打ち上げるために欠かせないのが、軽量化およびコンパクト化です。
スターリンクの衛星は、多くの機体をロケットに効率よく積載できるよう、従来の衛星と比べてかなり小さく、1機あたり約250kgに抑えられています。そして、フラットパネル状の設計で、体積についても最小限となるよう設計されています。

スターリンクの問題点・デメリット
多くのメリットや技術優位性を誇るスターリンクですが、問題点も持ち合わせています。代表的なものを2点挙げて、ご説明します。
問題点1:宇宙ゴミ(スペースデブリ)
以下に代表されるような宇宙ゴミ(スペースデブリとも呼ばれます)は、増加の一途を辿っており、スターリンクの開始以前からすでに大きな課題として警鐘されてきました。
- 制御不能となった人工衛星
- 打ち上げロケットの本体や、切り離し時の破片
- 宇宙飛行士が落とした工具や手袋
- 宇宙ゴミ同士の衝突で生まれた微細なゴミ(デブリ)
これらの宇宙ゴミは異なる軌道を無秩序に高速周回していることから、活動中の人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)に衝突することで、設備が破壊されたり乗員が命の危険に晒されたりするなどといった問題を引き起こします。それにもかかわらず、回収や制御が難しいことから、現状の技術では解決困難な課題となっています。
構築が進められているスターリンクは、構成する人工衛星が7,000基に到達した時点で、すでに全人工衛星の3分の2を占めるほどの規模となっています。この割合は日を追うごとに大きくなっています。
スターリンクを構築・運用するスペースX社では「失敗した衛星は5年以内に大気圏に再突入する(=燃えつきることで宇宙ゴミでなくなる)」としているものの、空間上の衛星数がかつてない規模で増えていくことから、上述の問題を引き起こすリスクは今後も高まっていくことが懸念されます。
問題点2:光害(ひかりがい)
こちらも、スターリンク開始より前から人工衛星の持つ課題として認識されていたものです。青天時に空を見上げると、条件が重なるときには肉眼で人工衛星を見つけられます。これは、人工衛星には金属が多用されてソーラーパネルが装着されるなど、太陽光を反射しやすいためです。
ただしスターリンクは、通常の人工衛星とは性質もスケールも大きく異なります。かつてない規模の衛星数かつ低軌道で運用されることから、上空に見えるスターリンク衛星が常に100基以上というのが常態化します。
これによって大きく影響を受けるのが、天文学の分野です。天文台では、可視光や電波などの電磁波を用いて宇宙・天体の観測活動をおこないますが、観測中にスターリンク衛星が横切ることによる写り込みで、光害が生じてしまうのです。

A. Lawrence, M. L. Rawls, M. Jah, A. Boley, F. Di Vruno, S. Garrington, M. Kramer, S. Lawler, J. Lowenthal, J. McDowell, M. McCaughrean, The Case for Space Environmentalism Fig 5, CC BY 4.0
スペースX社ではこのような光害への対策として、スターリンク衛星を真っ黒に塗ったり、サンバイザーを装着したりして、試験的にこれら問題点の解消を図りました。しかし、効果が限定的であったり、スターリンクの運用に支障をきたしたりするなど、解決の目処が立っていないというのが実情です。
スターリンクの活用・導入事例
スターリンクは海外のみならず日本国内でも、様々な目的での実証実験や導入が、続々と進んでいます。どのように活用されているか、いくつかの事例についてご紹介していきます。
1. 能登半島地震における携帯電話サービス復旧および被災者支援
2024年元日に発生した令和6年能登半島地震では、各地で土砂災害が発生して交通網が寸断されるなど、甚大な被害をもたらしました。これに伴い、携帯電話ネットワークが広範囲で使えなくなるなど、インフラにも多大な影響が生じました。
そこで、携帯電話ネットワークのサービスを迅速に復旧させるために、スターリンクが脚光を浴びました。光回線などのバックホール回線が寸断された既存基地局に加えて船上基地局において、機動力の高いスターリンクが代替回線として活用され、早期のサービス復旧に役立てられました。
それだけでなく、携帯充電器と併せて被災者などが利用できるFree Wi-Fiでも、インターネット回線としてスターリンクが活用されています。
2. 外航船における乗船中のウェルビーイング改善 (商船三井)
海運業界における船員不足が深刻化する中、船員の乗船中のウェルビーイング改善が急務となっています。そこで株式会社商船三井では、スターリンクを外航船に導入することにより、高速かつ低遅延な衛星通信サービスを活用し、船員の戦場での生活の質向上を図っています。
また今後においては、船陸間でのリアルタイムな情報共有を通じて、運行効率の改善や船上トラブル時のサポート提供など、海上のDXをさらに推し進めたいとしています。
3. 建設現場におけるデータ通信網の完全無線化 (竹中工務店)
株式会社竹中工務店ではDX化の実証実験において、建設現場におけるデータ通信網の構築にスターリンクを取り入れることで、完全無線化とともに構築時間を80%削減しています。
従来ではデータ通信網の構築を有線ケーブル主体(現場外からの光ファイバー+現場内のLANケーブル)でおこなっていたのに対し、これらを無線機器主体(スターリンク+フロア間の無線通信)とすることで、作業進捗に伴うケーブル盛り替えの手間を不要とするなど、生産性向上を図れます。
今後は、これらをパッケージ化して多くの建設現場を展開することで、建設業界全体のDXに貢献するとしています。
4. 音楽イベントにおける携帯電話の輻輳対策 (KDDI)
KDDI株式会社では2023年夏より「auフェスプロジェクト」として、音楽フェスイベントにおいてスターリンクを活用した公衆Wi-Fiサービスを複数会場にて展開しています。
局所的な人の集中により不安定となりやすい携帯電話ネットワークの代替としてWi-Fiを提供することで、SNS投稿やスマホ決済、待ち合わせ連絡などが快適におこなえるようになるとしています。
5. 遠隔治療の提供 (福岡大学病院)
福岡大学病院は、スターリンクを活用した遠隔治療の実証実験において、約1,000km離れたブタ手術の成功を発表しました。手術用器具を取り付けた支援ロボットを福島県郡山市の施設に置いて、福岡市内の病院からスターリンクを通じて操作し、生きているブタの左肺上半分を切除しました。
外科医の減少へも対応できる可能性が期待され、同病院では、事例を積み重ねてヒトへの臨床応用を目指すとしています。
6. 飛行機内Wi-Fiサービスの提供
複数の航空会社において、スターリンクを活用した飛行機内Wi-Fiサービスの段階的な提供開始がアナウンスされています。
- ジップエア
- ユナイテッド航空
- ハワイアン航空
- カタール航空
- エールフランス航空
静止衛星を活用した同様サービスは従来からありましたが、より安価でありながら、より高速・低遅延なWi-Fiサービスを提供できることから、今後も各社に広がっていくものと想定されます。
7. 船内Wi-Fiサービスの提供
KDDI株式会社とワイヤ・アンド・ワイヤレス株式会社では、スターリンクを活用した船内Wi-Fiサービス「フェリーWi-Fi」の開始をアナウンスしています。
こちらは先にご紹介した外航船向けとは異なり、フェリーを利用する一般乗船者に向けたサービスとなっています。
まずは、東京九州フェリーが横須賀・新門司間で運航するフェリー「はまゆう」にて、2025年1月から期間限定で提供します。ここで利用状況などを確認しながら、サービス提供をおこなうフェリーを順次拡大するとしています。
- 期間: 2025年1月22日〜3月31日 (開始時における予定)
- 料金: 24時間につき1,500円 (auユーザーは無料)
日本国内でスターリンクに期待されることとは
日本は、4Gや5Gなどのようなモバイル回線だけでなく、光ファイバーや固定回線が広く普及していて、世界的にみてもインターネット環境が良好とされています。そのような日本で、スターリンクはどのように期待されるのでしょうか。
日本国内で特に期待されるのは、居住者の少ない地域や山地などへの、ネットワーク接続エリアの効率的な拡大です。
1. 携帯電話の基地局におけるバックホールとして
光ファイバーなどを敷くのが困難な場所では、バックホール(基幹通信網への接続回線)を用意できないことから、携帯電話の基地局が設置できず、モバイルサービスを提供できないようなケースが多々あります。また、自然災害の多く発生する日本では、災害発生によるサービス停止もたびたび起こっています。
そのような場所や状況において、バックホールとしてスターリンクを活用することで、より広いエリアにモバイルサービスを提供することが可能となります。
KDDI社では、au基地局の今後における整備への活用を表明しており、さらなるエリア拡大が期待されています。
※KDDI社では、スターリンク衛星に対する日本国内の地上局も開設しています。
2. 山小屋やキャンプ場へのWi-Fiサービス提供
Wi-Fiサービスを提供するには、そこからインターネットへ接続するためのネットワーク回線が必要で、多くの場合では光ファイバーを利用します。しかし、居住者の少ないエリアや山地などでは、光ファイバー網が整備されていないことも珍しくありません。
そのような地域では、Wi-Fiサービスを提供することは現実的ではありませんでした。モバイルサービスが提供されていないエリアの場合、そこを利用する人にとっては、通信手段を断たれることを意味します。
そこで、光ファイバーの代わりとしてスターリンクを用いることで、山間のキャンプ場や各種施設、山小屋のような場所でもWi-Fiサービスを提供できるようになります。
3. 自治体・官公庁や企業におけるBCP対策
固定回線が使えなくなったときに備えるBCP対策としても、スターリンクは注目を浴びています。
自治体や官公庁をはじめ一部の企業においても、BCP対策としてのスターリンクの採用が検討されていますが、令和6年能登半島地震の発生を受けて、この動きは活性化しています。
4. 遭難時などにおける緊急通報手段として
従来のセルラー回線は、人口カバー率の向上に重きを置いて整備されているため、市街地を外れた山岳地帯や山道などでは、圏外となってしまい通信できないことも珍しくありません。
そのような場所で、遭難したり不慮の事故に遭ったりした場合、助けを求めるために連絡手段の確保が重要となります。先述したようなスマートフォンからスターリンクへの直接通信が実現することで、これまでのセルラー回線では圏外だった場所からでも、緊急通報などがおこなえるようになります。
さいごに
スターリンクは、今まで通信サービスを提供できなかったような地域へも提供できる、いわばデジタルデバイドの解消に大きく寄与すると期待されています。
また、自然災害の多い日本では、災害発生時におけるバックアップの通信手段として機能する機会が増えるかもしれません。また、技術がより進歩することで、インターネット利活用のあり方を根本的に置き換える可能性をも秘めています。
スマホからの直接接続を可能とする「Coverage Above and Beyond」計画が米国内で発表されるなど、今後もスターリンクの動向には目が離せません。
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