小売業界におけるよくある誤解10選 〜実店舗は不要?ECこそが最適解?〜

小売業界は、進化するビジネスモデルや新しい技術、顧客のブランドとの関わり方などによって、絶えず変化し続けています。小売業者が戦略を策定する際には、変化する小売トレンドへ継続的に適応する必要があります。

この記事では、そのような小売業界において誤解されがちな事柄を、10点にまとめました。

小売業界におけるよくある誤解

誤解1. 実店舗(リアル店舗)は衰退している

EC(Eコマース、ネット通販)の浸透は実店舗のビジネスに影響を与えており、2019年1四半期には、米国で6,000以上の店舗が閉店・廃業に追い込まれています。しかし調査データによれば、ECが米国の小売業全体に占める割合は、実際には1割程度に過ぎません。

ECが実店舗に勝る部分としては、商品がより探しやすいことや、多種多様な品揃え、ニッチな商品を入手できること、利便性の高い配送オプションなどが挙げられます。しかし顧客側は、積極的にEC上で商品を探し求めつつも、実店舗の利用を今でも望んでいます。

実店舗を展開する小売業者は、店舗形式の簡素化や、より良い商品の組み合わせの提案、スタッフのトレーニングへの投資、顧客サービス向上のための賃金アップなどをしながら、競争力を保つために努力しています。また、AIやARなどといった先進技術への投資を通じて、独自の店内マーケティングやブランディングを提供するなど、CX(顧客体験)を向上させるための工夫もしています。それだけでなく、EC業界においても存在感を高めており、主力商品に加えてEC向けの取扱商品も拡充しています。

誤解2. 顧客は買い物を減らし、支出を抑えている

小売業者が販売した全体の商品数は、人口の増加とともに増え続けています。2019年5月には、前年同月比で2.90%の成長を記録しました。

その一方で、別の興味深い側面も浮かび上がっています。激化する競争が商品単価を押し下げた結果、顧客が支出を抑えているのではなく、むしろデフレが生じていると考えることができます。

収入のうちアパレル関連への支出割合は、低下傾向にある。
収入のうちアパレル関連への支出割合は、低下傾向にある。
出典:Deloitte Insights『The consumer is changing, but perhaps not how you think

誤解3. 顧客はブランドを重要視していない

顧客は決して、ブランドに興味をなくしたわけではありません。

10万人の顧客を対象とした調査では、特定ブランドを好んで親近感を抱く人々は5年以上にわたってそのブランドを強力に支持し、満足している単発購入者よりも2.5倍多く支出しているという結果が明らかとなりました。

小売業者にとっては、何が顧客をブランドに結びつけるのかを理解することが重要です。この要素としては、次のようなものが挙げられます。

  • 商品の高い品質
  • 優れた顧客サービス
  • 割引
  • よく練られたキャンペーン展開
  • 魅力的で満足感のあるCXの提供
  • 顧客ニーズへの訴えかけ
  • 満足してもらえる商品

ただし顧客は、違うブランドを新たに試してみたいという意欲もあります。例えば、地元商品を扱う小さなコミュニティーストアの利用なども、この表れと言えるでしょう。

誤解4. 顧客は商品の下調べをすべてオンラインでおこなう

生活のあらゆる分野でデジタル化が浸透していることを踏まえると、顧客が下調べをすべてオンラインでおこなっていると考えるのも、無理はありません。

しかし2017年の調査レポートによれば、商品の下調べを実店舗のようなオフラインでおこなうことを、顧客の半数以上が好みます。特に25歳未満と50歳以上の年齢層では、この傾向が顕著に見られました。その一方で25歳から50歳未満では、実店舗に入っても短時間ですぐ出てしまう傾向があり、これが下調べをオンラインでおこなうと捉えられる要因かもしれません。

誤解5. 小売業の伝統的なマーケティングは時代遅れ

ミレニアル世代を中心に、地元で買い物をしたいという消費者思考が高まっており、地元企業をサポートするべく支出を増やすことに、顧客の40%が前向きであることがわかりました。

また、50歳以上の顧客が店舗に入って商品を探す際には、店舗内でのマーケティングキャンペーンへの露出は依然としてとても重要です。同様に、Eメールよりも効果が持続しやすい販促資料、ラジオ広告、DM、プロモーションパックも重要です。

ソーシャルメディアがバイラルマーケティングのための強力なプラットフォームであることは、言うまでもありません。とはいえ、顧客自身が店舗で触れることのできる「物理的な体験」の代替とはなりません。

誤解6. テクノロジー主導のCX戦略は大手ブランド向け

大手ブランドがCX戦略への投資で財政的に有利であることは事実ですが、小規模ブランドにおいても、テクノロジーを活用して記憶に残るCXを生み出す動きが見られます。

CXへの投資が50%を占めるようになる中、顧客が最も重要視するのは「体験」そのものであることを、ますます多くのブランドが認識しています。ポケモンGOを立ち上げたNianticも、さまざまなマーケティング戦略を用いて魅力的なストーリーを作り上げながら、優れたCXを達成した成功例の一つです。

誤解7. Mコマースの推進にはモバイルアプリが必須

2019年時点でEC取引額全体の44.7%をモバイル経由が占めるなど、Mコマースは、明らかに好調な成長軌道に乗っています。オンラインで展開している小売業者はすべて、モバイルユーザー向けに最適化されたWebサイトを運営しています。そして他にも多くの企業が、モバイルアプリを開発するために投資を急いでいます。それでも、顧客がわざわざダウンロードしてまで利用するアプリは限られている、というのが現実です。

実際にユーザーは、モバイルアプリを利用するよりも2倍の頻度でモバイルWebサイトにアクセスし、調査対象のうち58%が「最終的には実店舗で購入する」と回答しています。

小売業者は、用途の限られるモバイルアプリが顧客にとって本当に有益なのか、改めて確認する必要があります。

誤解8. デジタルコマースは人員を減らし、人件費を下げる

デジタル技術によってビジュアルマーチャンダイジング(VMD)や精算が容易になった今では、この考えは部分的には事実かもしれません。しかし顧客目線を重視する小売企業では、「人との対話」こそが最も重要なCXの一つだと捉えています。セルフサービスもある程度は受け入れられるものの、調査対象のモバイルユーザーのうち60%は、商品特徴や代替品の説明、再注文などにあたって、店員による接客を好んでいます。

商品はサプライチェーンを通じて多くの人手を経ており、ドローンや自動化技術などを用いたところで、これら業務の一部を完全に無くすことはできません。

デジタル業界の企業も実店舗運営に進出していますが、この動きは単純な人件費削減のためではありません。むしろ、店舗スタッフやサポート要員などとして人員が必要になることから、多くの雇用をもたらします。

誤解9. ドロップシッピングは減少傾向にある

在庫管理や配送にかかる手間、そして人件費や倉庫代を省けることから、多くの小規模小売業者がドロップシッピングによるメリットを享受しています。ドロップシッピングは、訓練されたスタッフによって専門的に運営されているため、小売業者にとって貴重な存在となっています。サービスモデルとしてのドロップシッピングは実際、企業物流をサポートする多くの事業体を、国内にとどまらず世界規模で生み出しています。

企業が顧客へ商品を迅速に届けることができる主な理由は、ドロップシッピング事業者が全国に拠点を構えているからです。スピーディーな配送が小売業者にとって重要なアピールポイントとなる中、ドロップシッピングは上顧客からの売上増加に非常に大きな役割を果たしています。ザッポスは、ドロップシッピングによって成功している小売業者の好例です。

ドロップシッピングは、小規模な小売業者にとっても導入しやすいことから、現在ではECの25〜30%を占めています。2021年時点で2,000億米ドルを超えるとされる市場規模は、越境ECなどの需要増加による影響もあり、今後も高い成長を続けると予測されています。

誤解10. EC専門企業が小売業を破壊している

EC専門企業の中には、革新的なビジネスモデルやユニークな手法で業界を席巻しながら、圧倒的な存在感を示す企業もあります。しかし、そのような企業が「小売業を破壊している」というのは、誤った捉え方です。

EC専業を含む小売企業は、「触れたい」「感じたい」「試着したい」などといった顧客ニーズに応える必要性から、実店舗も不可欠であると認識しています。

まとめ

ECが台頭し、買い物の文化や体験に大きな変革をもたらしていることは、疑いようのない事実です。

ただし、これまでのような実店舗型もすべての優位性を失ったわけではなく、依然として強力な優位性を有する部分もあり、ECとは共存の道を歩んでいます。

パーソナライズされた買い物体験などで変革し続ける商業活動の中では、新しい現実・常識とともに、俗説・誤解も生まれ続けるでしょう。データに根差した現在のトレンドを正確に把握することで、成長戦略にとって何が重要なのか、洞察に基づいた意思決定が可能となります。

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