SD-WAN設計レビューガイド 〜クラウド時代の通信品質と運用改善ポイント〜
企業ネットワークのクラウド化や拠点の増加を背景に、SD-WANを導入する企業は年々増えています。ただ、その設計を導入後に見直したことがある企業は、それほど多くありません。多くは、導入した時点の設計のまま運用が続いています。
やっかいなのは、設計と実態のズレが、ある日いきなり障害として現れるわけではないことです。通信品質の低下、運用負荷の増大、クラウド利用との不整合。どれも一つひとつは小さく、日々の運用の中に紛れて静かに溜まっていきます。気づいたときには構成が入り組み、どこから手をつければいいのかも見えなくなっています。
では、何を、どのタイミングで見直せばよいのか。本記事ではその答えを、設計レビューが必要な背景から、確認ポイント、現場で多い課題、進め方まで順にたどっていきます。
SD-WAN設計レビューが重要になる背景
拠点数の増減、業務システムのクラウド化、働き方の変化。導入当初に置いた前提は、数年のうちにこうした要因で崩れていきます。前提が変わったのに設計だけが据え置かれると、通信品質や運用負荷、セキュリティーの面でじわじわと無理が出てきます。
だから、SD-WANは「入れて終わり」にはできません。現在の利用状況と、これから先の事業計画。その両方に設計を合わせ続けるには、定期的な見直しが必要です。
見直す間隔は、最低でも年1回を基本にしたいところです。加えて、次のような節目では、時期を待たずにレビューをおこなうことをおすすめします。
- 拠点数が大きく増減したとき(目安として全体の1割以上)
- 基幹システムやグループウェアをクラウドへ移行したとき
- 大規模な組織変更や事業拡大があったとき
- 回線契約の更新・見直しのタイミング
- セキュリティーインシデントが発生したあと
いずれも、導入時の前提が動く局面です。設計が現実からどれだけ離れたかを測るには、ちょうどよい機会になります。
背景1:導入時要件と利用状況が乖離しやすい
SD-WANの設計は、導入時点の拠点数、業務要件、通信量を前提に組まれます。ところが運用が数年に及ぶと、組織変更や事業拡大、新拠点の追加によって、この前提のほうが動いていきます。
たとえば、当初は見込んでいなかった拠点間通信が増える。あるいは特定の拠点に通信が集中する。すると帯域が足りなくなったり、経路が偏ったりします。業務アプリケーションの使われ方が変われば、既存のトラフィック制御ポリシーも実態からずれていきます。
この「設計時の前提」と「いまの利用実態」のズレは、放っておくほど通信品質や業務効率に効いてきます。埋めるには、現状に合わせて設計を引き直すしかありません。
背景2:クラウド利用拡大によるネットワーク要件の変化
近年はSaaSやIaaSの活用が広がり、企業WANの通信先そのものが変わってきました。本社内のサーバーへアクセスする通信だけでなく、インターネット経由でクラウドサービスへ直接向かう通信が増えています。
この状況で本社集約型のネットワークを保ったままだと、クラウド宛ての通信がいったん本社を経由し、余計な遠回りをします。これがレイテンシーの増加や帯域の圧迫を招きます。
導入当初はクラウド利用が限定的だった企業でも、数年のうちに通信の重心はクラウド側へ移っていきます。設計が当時の通信先のままになっていないか、一度確かめておきたいところです。
背景3:運用負荷や通信品質の課題が顕在化しやすい
SD-WAN導入直後は問題なく回っていても、時間とともに運用面のほころびが見えてきます。
たとえば、次のような症状は多くの現場で見かけます。
- 特定の時間帯だけ通信が遅くなる
- 障害発生時に回線切替が想定通り動かない
- 設定変更が特定の担当者に依存している
見た目には機器やオペレーションの問題に映りますが、原因が設計そのものにある場合は少なくありません。定期的に設計を見直すことで、こうした症状の根を整理し、安定した運用に近づけられます。
SD-WAN設計レビューで確認すべきポイント
設計レビューでは、設定内容を追うだけでは足りません。いまの業務要件や利用状況に照らして、その構成が理にかなっているかを問い直します。回線構成、トラフィック制御、クラウド接続、冗長化、セキュリティー。この五つが、点検の主な軸になります。
ポイント1:回線構成は適切か
回線種別や帯域設計、拠点ごとの役割が現状と合っていないと、通信品質にもコストにも響きます。
たとえば、次のような点を確かめます。
- 重要な拠点に十分な帯域が確保されているか
- MPLSとインターネット回線の役割分担が適切か
- 障害時のバックアップ回線が必要かどうか
帯域が逼迫しているかどうかは、ピーク時間帯の回線使用率が一つの手がかりになります。目安として、ピーク時の使用率が恒常的に7〜8割を超える状態が続く拠点は、帯域の増強や経路の分散を考えるサインです。逆に、いつ見ても使用率が低いままの拠点は、契約帯域を見直せばコストを抑えられる余地があります。
ポイント2:トラフィック制御ポリシーは最適化されているか
SD-WANの強みは、アプリケーション単位で通信経路を制御できることです。うまく設計すれば、重要な業務通信の品質を優先して確保できます。
ところが実際には、すべての通信に同じポリシーが当たっていたり、優先制御がほとんど効いていなかったりします。そうなると重要な通信と一般の通信が同じ土俵で競合し、肝心なときに業務へ影響が出ます。
そのためレビューでは、アプリケーションの重要度と使われ方をもとに、優先順位が設計へ正しく落ちているかを確かめます。たとえば、遅延に弱い音声通話やWeb会議、基幹業務システムへの通信は優先度を高くし、バックアップやファイル同期、ソフトウェア更新は優先度を低く設定します。
このような振り分けが業務の実態と合っているかを、折にふれて見直します。
ポイント3:クラウド・SaaS接続は効率化されているか
背景2でも触れたとおり、企業WANに占めるクラウド通信の比率は上がり続けています。そのぶん、クラウドへの出方をどう設計するかが効いてきます。
確かめたいのは、次のような点です。
- Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、利用比率の高いSaaSへの通信が効率的な経路を通っているか
- クラウド通信がすべて本社経由になっていないか
- 拠点から直接インターネットへ抜けたほうが速くないか
拠点から直接インターネットに抜ける、いわゆるローカルブレイクアウトを採用する場合は、セキュリティーとの両立が問題になります。本社を経由しなくなるぶん、各拠点のインターネット出口に相応の守りが要るからです。次世代ファイアウォール(NGFW)やUTM、クラウド型のセキュアWebゲートウェイ(SWG)、DNSフィルタリングを、どこにどう置くか。
これらの機能をクラウド側にまとめるSASEの考え方や、将来のゼロトラスト対応も考慮に入れるべきでしょう。
ポイント4:冗長化設計は十分か
障害が起きても業務を止めないためには、冗長化の設計が欠かせません。
主に確かめるのは、次の三つです。
- 回線の冗長化
- 機器の冗長化
- 経路の冗長化
ここで油断しやすいのが、「設計上は冗長化されているから大丈夫」という思い込みです。
図の上で二重化されていても、いざというときにフェイルオーバーが想定どおり動くとは限りません。だからこそ、年1〜2回、あるいは大きな構成変更のあとには、実際に回線や経路を切り替える試験をおこない、狙いどおりに切り替わるかを確かめておきます。
ポイント5:セキュリティー対策は現状に適合しているか
SD-WANでは、ネットワークの設計とセキュリティーの設計を切り離せません。インターネットを使う通信が増えるほど、経路ごとに求められるセキュリティー要件も変わってきます。
たとえば、次のような点を確かめます。
- 拠点間通信が適切に保護されているか
- インターネット出口の制御が整理されているか
- アクセス制御ポリシーが現在の利用実態に合っているか
ゼロトラストの考え方が広がったいま、社内と社外を分ける境界防御だけでは守りきれない場面も増えました。いまのセキュリティー設計が、現在の運用方針にまだ合っているか。ここも定期的に問い直したい部分です。
SD-WAN環境でよく見られる設計上の課題
現場では、導入当初に描いた理想の設計が、そのまま残っているとは限りません。環境の変化と運用の積み重ねが、設計と実態のあいだに少しずつ隙間を作ります。
代表的なものを挙げます。
課題1:導入当初の設定がそのまま残っている
環境や業務要件は変わったのに、初期の設定だけが更新されずに残っていることがあります。不要になったポリシーや古い経路設定が積もると、構成は複雑になり、管理はしづらく、トラブルの温床にもなります。
課題2:回線増設によって構成が複雑化している
拠点や回線を足し続けるうちに、当初の設計思想が薄れ、構成が入り組んでいくことがあります。全体の見通しが悪くなると、障害時の切り分けに手間取り、運用の負荷はそのぶん重くなります。
課題3:アプリケーションごとの制御が活用されていない
SD-WANの強みであるアプリケーション単位の制御が、ほとんど使われていないことがあります。この状態だと、SD-WANは実質ただの回線切替装置になり、本来の通信最適化という強みが活かせないままになります。
課題4:可視化機能を十分活用できていない
ログ分析やトラフィックの可視化といった機能があっても、見るだけで終わっていることがあります。その結果、ボトルネックや利用状況の変化、異常の予兆を把握できず、せっかくの改善の糸口を見逃してしまいます。
SD-WAN設計レビューを成功させる進め方
設計レビューは、思いついたときに一度だけ見る、という進め方では効きません。現状の把握から課題の整理、そして将来計画の反映まで、一続きの流れとして踏んでいくと、改善が実を結びやすくなります。
ステップ1:現状構成と運用状況を可視化する
まずは、ネットワークの全体像を正確につかむところからです。
たとえば次を確認し、現状を可視化します。
- 構成図の整理
- 通信状況や障害履歴
- 運用ルール
これで、設計上の前提と実運用のギャップがはっきりします。
ステップ2:課題と改善目標を整理する
次に、洗い出した問題点をもとに、改善の方向を定めます。課題をただ並べるのではなく、何のために直すのかをはっきりさせるのが肝心です。
たとえば次のような軸で整理します。
- 通信品質の改善
- ネットワークコストの削減
- 運用負荷の軽減
目的がそろうと、レビューの評価軸もぶれなくなります。
ステップ3:将来計画を踏まえて設計を評価する
現状だけでなく、これからの事業計画も視野に入れて設計を評価します。拠点の増加、クラウド移行、セキュリティー強化。
こうした中長期の変化を見込んでおくことで、その場しのぎで終わらない最適化ができます。
ステップ4:専門ベンダーによるレビューを活用する
自社だけで評価するのではなく、第三者の視点を加えると、見え方が変わることがあります。
ベストプラクティスとの突き合わせや、内部では気づきにくい設計課題の発見では、外部の視点がとくに効きます。
さいごに
SD-WANは、導入した時点では最適でも、事業環境の変化とともに設計とのズレが広がっていきます。しかもそのズレは、冒頭でも触れたように、静かに溜まって一気に姿を現します。だから、定期的なレビューで現状を見直しておくことが、いちばんの備えになります。
クラウド利用の拡大や拠点ネットワークの複雑化で、これまでの設計前提がそのまま通じない場面も増えました。回線構成、トラフィック制御、セキュリティー設計。どれか一つではなく、絡み合ったまま見直す必要があります。
設計の課題は運用の中で少しずつ表に出てくるので、早めに可視化して手を打てるかどうかで、その後の安定度が変わります。
当社では、SD-WANやSASE、ゼロトラストの導入を支援しています。
グローバルなプライベートバックボーンを持つSD-WANサービスもご用意しており、お客様の要件に合わせたネットワーク設計をご提案します。「クラウド時代に合うWANへ刷新したい」「海外拠点間の通信を改善したい」といった課題がありましたら、お気軽にご相談ください。
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